地域住民や旅行者一人ひとりの移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行う「MaaS(Mobility as a Service)」。群馬県は2023年3月、前橋市が展開していた「MaeMaaS」を継承し、エリア拡大やサービスを拡充した「GunMaaS」のサービスを開始した。
経路検索から予約、決済などといったMaaSの基本機能に加え、マイナンバーカードを活用し、特定エリアの住民や年代を対象とした割引制度を展開している点が先進的として高く評価され、スマートソリューション部門MaaS分野で最優秀賞を受賞した。
スマートソリューション部門
MaaS分野
最優秀賞
マイナンバーカードで、
一人ひとりへ最適化
GunMaaS 群馬県・前橋市・群馬県新モビリティサービス推進協議会
マイナンバーカードを活用し、個別最適化された移動を実現へ
マイナンバーカード認証で「市民割」や「高齢者割」
地方都市における移動手段の課題は深刻だ。公共交通網は縮小傾向で、クルマを持たない人たちの移動手段はかなり狭まってしまっている。
前橋市は2021年10月に鉄道やバス、シェアサイクルなどの検索・予約・決済機能などを搭載した「MaeMaaS」の提供を開始した。ただ、当然ながら市民は市外にも移動するので、より広範囲をカバーする方が利便性は高い。そこで、群馬県と前橋市がタッグを組み、「GunMaaS」の提供を2023年3月から開始した。群馬県、前橋市がともにサービスの充実を進めるとともに、群馬県が県内における横展開を推進している。
GunMaaS自体の運営や管理は、県や前橋市、県内の交通事業者などが参画する群馬県新モビリティサービス推進協議会が担っている。
GunMaaSはWebアプリでスマートフォンのブラウザーから利用できる。主な特徴は次の4つである。
①鉄道やバス、タクシー、シェアサイクルなど多様な交通手段を見える化
②年齢や属性に応じた様々な電子チケットが購入可能
③マイナンバーカードを活用し、属性に応じたサービスを自動提供
④事業者横断でのデータ利活用により、利便性の高い交通サービスを実現――だ。
ここ数年、各地で様々なMaaSが展開され始めているが、GunMaaSの最大の特徴はやはり③のマイナンバーカードとの連携だろう。
マイナンバーカードを登録すれば、例えば「前橋市民割」や「高齢者割」などといった、それぞれの属性に応じた割引を自動的に受けることができる。
まさに、個別最適化された移動を目指すMaaSのコンセプトに当てはまるものだ。
その他、2023年度から群馬県が公用車を活用したカーシェアの取り組みを始めている。
平日は公用車として使い、土日などの休日は県民のためのカーシェアとして活用するというものだ。
この予約などもGunMaaS上でできるように設計している。
期間限定の運賃無料施策などで登録者増へ
MaeMaaSからGunMaaSになった2023年3月時点での利用登録者は3882人だったが、2024年5月末時点で1万4322人まで伸び、うち県民は44%だという。GunMaaSでは県内一定区間の1日乗り放題チケットなども販売しており、結果的に県外から来た観光客向けにも多く活用されている。
課題としては、県民への認知度が挙げられる。
前橋市の人口は約33万人、群馬県の人口は約190万人であり、それと比較すると1万4322人はまだまだの数字ではある。登録者数を増やすため、スマートフォンに慣れていない高齢者向けの登録相談会なども定期開催しているほか、前橋市では2024年1~3月、15~22歳の市民を対象に、市内を通るすべてのバスや上毛電鉄の土日祝日の運賃を無料にする施策を実施。当該期間での登録者の伸び率は高かったという。
認知度を上げる取り組みとともに、こうした短期間での特典企画などによって、登録者数を伸ばしていく。
前橋市ではマイナンバーカードの申請率が85%を超えており、GunMaaSを最大限活用してもらえる土壌はすでに整っていると言え、ポテンシャルは十分だ。
データ活用で政策立案にも活用目指す
今後は、マイナンバーカードと連携した割引制度を活用できるエリアを増やすなど、県内全体でGunMaaSの効果を最大限発揮できるように取り組んでいく。
もともとのコンセプトは県民向けのサービスではあるが、県外の利用者も多いことから、観光利用についても検討していく方針だ。
もちろんGunMaaSは利用者向けのサービスではあるが、データ活用も大きなメリット。
現在はGunMaaSという「プラットフォーム」が完成した段階で、データを収集、分析していけば、今後は地域の公共交通再編なども含め、様々な政策での活用も期待できる。
マイナンバーカードを活用した割引などといった移動の個別最適化、そして得られたデータを活用するという面は、まさしくMaaSのコンセプトのひとつ。群馬県・前橋市・県内交通事業者の挑戦はまだ始まったばかりだ。