スマホ社会の必要不可欠な素材に、さらなる進化が続く
日本で開発された「QRコード」が今年で30周年を迎えた。特許権の無償開放と、カメラ付き携帯電話、そしてスマートフォンの普及により社会で広く活用されている。近年では駅のホームドア開閉制御、キャッシュレス決済、セキュリティなど活用範囲がさらに広がっている点も評価された。
審査委員特別賞
世の中の変化に合わせてさらに進化を続ける
日本で開発された「QRコード」が今年で30周年を迎えた。特許権の無償開放と、カメラ付き携帯電話、そしてスマートフォンの普及により社会で広く活用されている。近年では駅のホームドア開閉制御、キャッシュレス決済、セキュリティなど活用範囲がさらに広がっている点も評価された。
デンソーウェーブ(当時はデンソーの応用機器事業部、愛知県知多郡阿久比町)が1994年にQRコードを開発した。当時製造現場では、部品に生産管理用のバーコードを何枚も貼り付けて管理・運用していたが、読み取りに時間がかかった。QRコードはその課題を解消し、高速大容量かつ正確に読み取り可能なソリューションとして開発された。コードの隅に3つの「切り出しシンボル」を置くことでコードの位置を正確に認識し、角度に関係なく高速での読み取りが可能となる。切り出しシンボルの白黒部分の幅の比率は、誤認識防止のため印刷物にある絵や文字の比率を調査し、最も使用されていない比率「1:1:3:1:1」を割り出して採用した。横方向にしか情報を持たず最大20文字ほどのバーコードに対し、QRコードは縦横に情報を持つため数字で約7000文字を格納し、さらに漢字の表現も可能にした。またコードの一部が欠損しても正しく読み取ることができる「誤り訂正機能」により、汚れが付着する製造現場での使用にも強みを持つ。
開発当時は携帯電話の普及前だったため、WebのURLの読み込みやQRコード決済は想定していなかったという。スマートフォンの普及により活用が大きく広がった。
デンソーウェーブはQRコードについて特許権を無償開放している。国内外へ普及させる意図のほか、もともと無償であるバーコードから置き換える狙いがあった。費用がかからず、規格化・標準化されることで日本国内だけでなく世界中で利用されるようになった。
ビジネスとしては、QRコードの開発部門がバーコードの読み取り機を開発・製造する事業部であったため、QRコードが普及することにより読み取り機の需要が喚起され、拡販につながるだろうという読みがあった。現在QRコードに関しては、読み取り機と、QRコードを活用したソリューションの二本立てのビジネスとなっている。
QRコード決済やスタンプラリーなどQRコード導入の場は幅広く、開発当初の製造領域にとどまらず、ライフスタイルの一部として活用シーンが広がっている。2019年5月には東京都交通局との連携により、駅のホームドア開閉制御システムでの採用が発表された。
地上を走る電車は日照の変化によりコードの欠損(色飛びなどで読めないこと)が多く発生するため、最大50%の欠損に対応できる新型QRコード「tQR®」が開発された。両数やドア数などの情報を入れたコードを車両ドアのガラス面に貼り付け、ホーム天井のカメラで読み取る仕組みだ。鉄道会社間の乗り入れがある場合に特に効果を発揮し、車両によって異なるホームドアの開閉場所に対応できる。また車両の改造不要でコストが大きく抑えられる。都営地下鉄浅草線の事例では、試算で数十億円から270万円まで削減された。
観光スポットでも活用が広がっている。山形県天童市の実証実験では、観光客一人ひとりにQRコードを割り振り、観光スポットを巡る「天童巡回バス」の乗降時に読み取ることで、観光客の属性と移動履歴を紐づけて記録する。ニーズに合わせて運行の効率化、さらにより魅力的なサービスの開発につなげていく。
QRコードが世界中で広まる一方、より高度なニーズに対応した新しいQRコードの開発が続いている。2022年に発表された「rMQRコード®」は、より多くの情報を格納できるマトリックス方式の2次元コードだ。従来のQRコードでは難しかった狭いスペースへの印字や、より多くの情報を格納したいというニーズに対応する。ほかにも超小型で小スペースに印刷が可能な「マイクロQRコード」や読み取り制限機能を搭載した「SQRC」など、世の中の変化に合わせてさらに進化を続けている。