MM総研大賞2022 <スマートソリューション部門>非地上インフラ分野 最優秀賞「宇宙データセンタ構想」
日本電信電話株式会社/スカパーJSAT株式会社

2022年07月22日

持続可能な社会の実現に向け、
日本発の宇宙インフラ構築に挑戦

 

日本電信電話(以下、NTT)とスカパーJSATは2021年以降、人工衛星等を活用した新たな「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築に挑戦している。その第1弾が衛星と地上とを光伝送で繋ぐ「宇宙データセンタ構想」だ。通信の可能性を広げ、持続可能な社会の実現に向けた、レジリエントなネットワークインフラのあり方を示した本構想のポテンシャルが高く評価され、スマートソリューション部門 非地上インフラ分野で最優秀賞を受賞した。


宇宙統合コンピューティング・ネットワークの概念図

宇宙空間での通信インフラ構築に挑む

両社が2021年5月に発表した「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」とは、静止衛星・低軌道衛星・HAPS(High Altitude Platform Station)を光無線通信で繋ぎ、巨大な編隊として活用する構想だ。実現すれば、宇宙空間での高度なデータ処理が可能になるほか、地上インフラの整備状況に依らない広範囲のモバイル通信が実現する。

この構想には2社の技術・スキルを全面展開する。スカパーJSATはJCSAT-1号機から30年以上の衛星運用実績を誇り、現在も16機を運用するアジア最大の通信衛星オペレーターとして実力は折り紙付きだ。

NTTは通信技術で世界を主導する。コンピューティング用のチップ内に光通信技術を応用した「光電融合技術」は低消費電力、高品質・大容量、低遅延伝送を実現。この技術を複数衛星間や地上との通信に使えば、通信の高速化と多様なリソースを有機的に繋げたデータ処理が可能となる。日本で、宇宙統合コンピューティング・ネットワークのような壮大な構想に挑戦しうる組み合わせは恐らくこの2社以外にないだろう。

3万6000キロの距離を縮める光データリレー

2022年4月26日、本構想の実現に向け、両社共同出資の新会社設立が発表された。2022年7月に設立する㈱Space Compassだ。NTTの「N」、スカパーJSATの「S」を方位磁針(compass)に見立て、未来の価値を発見する羅針盤になるとの思いを込めた。

新会社設立の記者会見では2つの事業プランも示された。その第1弾が2024年度をメドに提供開始をめざす「宇宙データセンタ構想」に他ならない。具体的には、静止衛星から地上までを光伝送で結ぶデータリレーサービスを指す。宇宙で集めた観測データを利用しやすい形に変えて地上へ高速で送るのだ。

観測データの地上への送信には非常に多くの課題が存在する。まず、一般的な観測衛星は約90分で地球を1周するが、取得したデータを地上に伝送するタイミングは衛星が地上受信局の上空を通るごく短時間に限られる。静止衛星をデータ中継に利用すれば、ほぼリアルタイムにいつでもデータを地上に落とすことが可能になる。また、電波による通信にはタイミングや容量に制約がある。観測技術の向上に伴いデータ量自体が増大する中、衛星内でのデータ処理にも限界があり、ローデータに近い状態で地上に送らなければならない点も大きな課題だ。リアルタイムな観測データの利用ニーズは根強いが、扱いにくく、届くのも遅いことが積極的なデータ活用を妨げている。

持続可能な社会をもたらす構想

宇宙データセンタにより、既存サービスの約10倍の速度で地上に転送可能となる。衛星間のコンピューティングリソースを光で繋げば、必要なデータだけを抽出して送ることも可能だ。これは、宇宙観測データをビッグデータのひとつとしてサービスに取り込める可能性を示唆する。例えば、気象衛星のデータをリアルタイムに解析し、お天気アプリや店舗需要予測などの機能強化に使える。一般消費者も宇宙データセンタの恩恵をやがて実感できるようになるはずだ。

宇宙データセンタと同時に発表されたもう一方のプランは「宇宙RAN事業」だ。HAPSを「空飛ぶ基地局」として利用し、広域かつ強靭なモバイルインフラを構築。地球上の全領域に対する6G通信を実現する狙いがある。

宇宙空間は地上の環境や災害の影響を受けにくく、安定した通信インフラに適した領域だ。光電融合技術は消費電力量を格段に抑えた通信インフラ構築に役立つ。宇宙統合コンピューティング・ネットワークは両社が掲げる、レジリエントで、持続可能な社会の実現を大きく引き寄せる構想と言えよう。

 

MM総研大賞について

「MM総研大賞」は、ICT分野の市場、産業の発展を促すきっかけとなることを目的に、MM総研が2004年に創設した表彰制度です。2022年度の今回が19回目になります。優れたICT技術で積極的に新商品、新市場の開拓に取り組んでいる企業を表彰するものです。

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