MM総研大賞2022 大賞 受賞 <スマートソリューション部門>スマートシティ分野 最優秀賞「FIWAREを活用したスマートシティ」
日本電気株式会社/高松市/富山市

2022年07月22日

企業と自治体が一体となって
データ利活用によるスマートシティの実現を推進

 

都市や地域の問題を解決するスマートシティを実現するにはセンサーデータなどの利活用が必要で、NECは欧州で始まったオープンソースのデータ連携基盤「FIWARE」の開発に2011年から参画し、普及を推進してきた。高松市や富山市などの自治体と協力して様々な地域サービスに活用し、近隣市町村にもその連携基盤を広めた。データ連携に必要な標準化などの取り組みや企業と自治体が一体となってスマートシティづくりに取り組んだ点が高く評価された。

「FIWARE」の導入は世界で250都市以上

NECグループが「FIWARE」に着目したのは2011年のこと。NEC欧州研究所がEUでの「FIWARE」の開発プロジェクトに参画したのが始まりだった。当初はIoTを街中に入れれば、自動化や効率化などにより社会課題を解決する新しい街づくりができるのではないかとの着想から始まったが、早い段階から分野横断のデータ利活用が重要となる今のスマートシティの姿が描けていた。「FIWARE」はオープンソースソフトウェアのため、データ連携基盤として、ベンダーロックイン排除や共通APIで相互運用性が高いこと、グローバル標準であるといった多数のメリットがあり、オープンなデータ活用・連携に長けている。そして、モジュール構造になっていて必要な機能をいろいろ組み合わせることができ、使い勝手も良いことなどから開発と普及の両面で深く関わっていった。またNECでは、「FIWARE」を核にして、更に生体認証を活用した個人認証や、ID連携機能などをセットにした「NEC都市OS」を提供している。グローバル標準に加えて独自の先端技術で差別化を狙う格好だ。

現在、「FIWARE」の導入は世界で約30カ国、250以上の都市に広がっている。日本でもNECの現在までの実績だけで13自治体へ納入されおり、その先駆けとして取り組んだ代表格が今回共同受賞となった高松市と富山市だ。最近では国もオープンな共通APIでつながるデータ連携基盤、そして地域での実装を加速するスマートシティリファレンスアーキテクチャなど標準化を強力に推し進めている。2021年に発表されたデジタル田園都市国家構想でもこの点を重視しており、自治体への交付金の要件事項にも記載されている。「FIWARE」はその方向性とも一致。スマートシティ実装を加速する土壌が整ってきている。

高松市は近隣自治体と連携し広域防災に活用

高松市は2017年に日本で初めて「FIWARE」を導入した。もともと水が少ない地域で水災害に慣れていなかったところへ、2004年の台風16号で満潮と台風のピークが重なり大きな被害にあった。道路が冠水し、河川沿いに海水が逆流。家屋や街行く車が多数浸水した。その経験からIoT技術にいち早く目をつけ、2017年に「FIWARE」を利用したIoT共通プラットフォームを構築すると共に、その効果的な利活用を目的に産官学の協議会を立ち上げた。NECはその当初から運営委員企業の1社として事務局である高松市と一体となって推進している。当時はまだ「データ連携って何?」という時代で、デジタル活用を協議会の形で進めるのはハシリだったという。

防災分野の利活用では、台風やゲリラ豪雨対策として水位計や海の潮位計、道路・鉄道の下のアンダーパスの所にセンサーを設置し、IoT共通プラットフォームにデータを収集している。収集したデータはダッシュボード上に一元表示しており、従来は人の目で確認していたところを、例えばここの道の近くの水位が上がってきて危険だから通行止めの指示を出すべきかダッシュボードを介して判断する、といった対応がリアルタイムで行える仕組みとなっている。

また、高松市の事例は近隣自治体と広域連携しているのも大きな特徴。観音寺市、綾川町との3市町間でIoT共通プラットフォームを共同利用し、広域防災に取り組んでいる。国の目指す標準化の流れとも一致しており、この取り組みは2021年度「情報通信月間」総務大臣表彰も受けている。初の「FIWARE」導入、広域連携、協議会形式でのデジタル活用の推進など、初物づくしのモデルケースであり、その後のスマートシティづくりの進め方に大きな影響を与えたと言えよう。

富山市は自治体主導で地域全体のIoT化を推進

富山市では各種IoTセンサーなどを活用したスマートシティを実現するため、2018年度に市が主体となって市内居住エリアのほぼ全域をカバーする省電力広域エリア無線通信技術の「LPWA網(LoRaWAN)」を整備した。あわせてその通信網から収集したデータを管理するためのデータ連携基盤として都市OS「FIWARE」を導入した。

一方で人材面では、富山大学がリードする形でデータサイエンティストの育成に注力。地域課題の解決や産業創出に貢献する人材を、データサイエンスの専門家としてではなく、様々な分野で幅広く育成しようとしている。データ収集の実験場と分析人材が同時にそろってくる格好だ。富山市は従来から公共交通を軸としたコンパクトなまちづくりによる持続可能な社会の実現に取り組んできたところだが、ICTを活用することで、その政策を深化させることを目的として、産官学民で広く連携し一体となってスマートシティづくりに取り組んでいる。

データ活用のパイロット事業として、児童の通学路情報の実態調査を行っている。2023年度までに市域全小学校での実態調査の完了を目指し、張り巡らせたLPWA網とFIWAREを使って、毎年2,000名程度の児童にGPSトラッカーを配布し、児童の登下校路の実態データを収集して、地図等の基盤データに重ね、富山大学と共同でデータ分析を行う「こどもの見守り事業」を展開している。また、LPWA網とFIWAREを民間事業者にIoTセンサーなどの実証実験環境として無償提供する公募事業も展開している。沿岸部や市街地、山間部など様々なフィールドを含む富山市全域を実装実験環境として無償提供することで、ベンチャー企業や新事業立ち上げの参入障壁を下げ、Society5.0における新産業の育成を目指している。地方都市における地方創生のひとつのモデルケースと言えよう。

スマートシティは標準化の新たなステージへ

自治体での「FIWARE」の使い方は何が多いのか。――NECによれば、「防災」「交通移動」「観光」「医療」など様々で、複数テーマの自治体も多いという。高松市は防災だけでなく観光もテーマになっており、富山市の場合は教育・安心安全関係やIoT関係のインフラ周りで、多岐に渡っている。

また、高松市と富山市はともに40万人都市だが、地方中核都市が動きやすく先行事例になりやすいのか。――(同)先行事例は確かに地方中核都市だったが、ひとつ言えるのであれば市長などトップのリーダーシップとチャレンジ精神が重要な要素となる。そして今はアーリーアダプターからもう少しでマジョリティに移りそうな段階で、それ以外の自治体にも広がろうとしている。そういう点で、今回の受賞は絶好のタイミングだったといえるだろう。

今年5月には、NECと三井住友フィナンシャルグループが発起人となって「一般社団法人 スマートシティ社会実装コンソーシアム」を設立し、6月から入会受付を本格的に開始した。あらゆる業種や地域から広く参加を募り、2025年までに200団体・企業との連携を目指すという。DX時代になって1社だけでは解決できない社会課題が多いことを実感した。ベンダーとユーザーという関係やライバル企業といった従来の枠組みではなく、参加者が協調して社会課題の解決に挑むことが重要になる。スマートシティは新たなステージに移ろうとしているようだ。

MM総研大賞について

「MM総研大賞」は、ICT分野の市場、産業の発展を促すきっかけとなることを目的に、MM総研が2004年に創設した表彰制度です。2022年度の今回が19回目になります。優れたICT技術で積極的に新商品、新市場の開拓に取り組んでいる企業を表彰するものです。

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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。