MM総研大賞2021 〈スマートソリューション部門〉 次世代社会インフラ分野 最優秀賞「量子暗号通信」
東芝デジタルソリューションズ株式会社

2021年07月19日

世界最高性能で築く次世代通信セキュリティ基盤

 

理論上盗聴が不可能とされ、量子コンピューター時代のセキュリティ問題を解決する「量子暗号通信」。東芝は20年以上にわたる研究開発で世界トップの技術を保有し、数々の世界記録を更新してきた。量子インターネット通信の実現における先進性や将来性で高い評価を得て、「MM総研大賞2021」次世代社会インフラ分野で最優秀賞を受賞した。

 

 

20年以上の研究開発で究極の暗号技術を事業化

量子コンピューターの開発が世界で進んでいるが、現在広く使われている通信の暗号アルゴリズムは同コンピューターを用いると瞬時に解読されてしまう可能性が指摘されている。2030年頃には本格化するといわれる量子コンピューター時代に対抗できるソリューションが、量子力学に基づく新たなセキュア通信「量子暗号通信」だ。量子暗号鍵の情報を光子にのせて光ファイバーで通信することで、光子の「分割できない」「状態を完全にはコピーできない」という特徴を利用し、通信の途中で盗聴されていないことが保証された暗号鍵を安全に共有できる。

東芝は、1991年に英国に設立したケンブリッジ研究所を中心に20年以上にわたって量子暗号通信の研究を進めてきた。この基礎研究をベースに日本で実用化開発を推進し、2020年度に事業化を実現。2021年4月から東芝デジタルソリューションズに移管し、事業を進めている。

現在、中国をはじめ韓国や欧州も同分野に力を入れてインフラの構築を進めているところが、その中でも同社の技術・性能は圧倒的だ。

世界最高の技術で圧倒的にリード

東芝デジタルソリューションズは量子暗号鍵の送信・受信用の配送システム製品を世界に向けて提供する。通信用の光ファイバーを共有し、専用のダークファイバーの準備が不要な「多重QKDシステム」と、量子暗号鍵配送の速度と距離を最大化した「長距離QKDシステム」の2種類をラインアップ。前者のシステムは、光波長多重化技術を活用して光ファイバーの敷設コストや負荷を低減でき、既設の光回線でも利用できる。後者は世界最速の毎秒300キロビットで鍵を共有できるシステムだ。実績のあるスイスや中国のメーカーで数キロから数十キロ程度の速度となる。同社の光学制御技術を用いたハードウェアや処理スループットを向上させるソフトウェア技術の融合で高速化を実現する。さらに配送できる距離も世界最長の120kmと、他社を大きく引き離す。

長距離化の技術では、同社が考案した「Twin-Filed QKD」という独自のプロトコルを用い、2021年6月に世界最長の600km以上の長距離通信の実証に成功した。5年以内の実用化をめざし、今後は都市間や国家間を安全な暗号通信で接続できるという。

プラットフォーマーとして2030年度30億ドルの売上めざす

これまでに東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と全ゲノム配列データのリアルタイム伝送を世界で初めて実証したほか、米国Quantum Xchange社の金融機関向けのネットワークでニューヨークの本社とニュージャージーのバックオフィスを結ぶ実証試験をするなど、多くの実績がある。英国ではBT社と提携し、これまで機密性の高いデータを人手で運んでいた英国National Composites Centre(NCC)とモデリング&シミュレーションセンター(CFMS)の間で量子暗号通信をし、同国初の産業分野へ展開できた。

現在、官公庁や金融機関、医療機関など機密性の高い通信を必要とする分野を中心に幅広い企業から声が寄せられている。国家安全保障にかかわる政府機関の機密情報、金融機関の高額かつ高度な取引情報、医療機関のゲノム情報や臨床データ、製薬開発など秘匿性の高い情報などが最初の応用先となるだろう。

中長期の目標は量子鍵配送サービスプラットフォームの構築だ。プラットフォーマーとして、ユーザーが簡単に量子暗号通信を利用できるサービス実証を2022年~2023年にも開始する。将来的には衛星も活用したグローバルなプラットフォームにしていく計画だ。

同社の予測では量子鍵配送サービスのグローバル市場は2035年度に約200億ドルまで拡大するとしており、同社は2030年度に25%のシェア、30億ドル規模の売上高をめざす。

MM総研大賞について

「MM総研大賞」は、ICT分野の市場、産業の発展を促すきっかけとなることを目的に、MM総研が2004年に創設した表彰制度です。2021年度の今回が18回目になります。優れたICT技術で積極的に新商品、新市場の開拓に取り組んでいる企業を表彰するものです。

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