MM総研大賞2020 話題賞「新型コロナ情報の提供に向けたシビックテックによるサイト開発プロジェクト」
東京都・一般社団法人Code for Japan

2020年09月14日

オープンソース化で寄せられた提案を新型コロナ感染症の最新情報の提供に活用

 

「東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト」はコロナの脅威が深刻化する2月末に東京都が開設準備を始めてから1週間後にスピード公開された。行政と市民団体が一体となりICTを活用して社会の課題解決に取り組む「シビックテック」という考え方を実践する中で、ソースコードのオープン化に踏み切り、広く海外からもアイデアを吸収できた。短時間で質の高いサイトを実現した先進事例としてMM総研大賞の「話題賞」を受賞した。

行政とのアジャイル開発で実績豊富な市民団体

このサイトは都庁内から集めたファクトを整理し、一元的に示すことを目的に開設された。掲載情報は福祉保健局が取りまとめる日々の感染状況データだけではなく、マスクの処分方法、給付金に関する情報など幅広い。

サイトを運営するのが、都のコロナ広報を担う複数部署のメンバーで構成した「新型コロナウイルス感染症対策特別広報チーム」。通常の関連リリースの配信だけでなく、小池知事が日々現状を説明する動画のライブ配信なども企画・推進した。サイト開発が決定した2月26日は、安倍首相が全国の学校に臨時休校を要請した前日にあたる。国内で感染者数が増え、不安が高まっていた時期だ。予定のサイトアップ期限が差し迫る中で開発業者を選定し、一般社団法人のCode for Japanに決定した。同組織は中小企業庁や福島県浪江町向けにサイトやアプリを開発した経験があり、行政とのアジャイル開発の実績が豊富である点を強みとしている。

Code for Japanは現在の関治之代表理事が2013年に設立した。東日本大震災の復興支援に携わった経験をもとに、シビックテックの考え方が先行していた米国の団体をモデルにした。受託案件対応のほか、テクノロジー活用支援や街づくりに関する課題解決支援、開発イベントの開催などに取り組む。

地域の課題を住民自らが解決する

同法人の解釈では、シビックテックとは「市民自身が社会課題を解決する」・「行政と共同で社会課題を解決する」の2つと定義できる。住民やエンジニア、行政などさまざまなステークホルダーを巻き込みながら活動を展開する。

地域活動のベースは「ブリゲード」と呼ばれる全国約80あるコミュニティ。「消防団」を意味するこのコミュニティに公務員や研究者、エンジニアや学生などが各自のスキルを持ち寄ることで、地域の課題をプロジェクト化している。ブリゲードの多くは任意団体だ。Code for Japan自身もいわば大規模なブリゲードという位置づけで、全国のブリゲードと対等な関係を志向している。

参加者の25%程度はボランティアで参加する公務員だ。このサイトでメディア露出が増えてからはエンジニアの参加者が急増。趣旨に賛同し資金提供を希望する企業も出てきている。

今回のサイト開発は2段階でプロジェクトが進んだ。まず、Code for Japan内の約10人で骨格部分を開発。開発着手から立ち上げまでの期間がわずか1日半、3月3日深夜に公開した。その後、ソフトウェアの開発プラットフォーム、GitHub上でソースコードを公開した。オープンソース化により他の自治体にもソースコードを使ってほしいという思いから始めたものだ。

ソースコードをオープン化したことで一般の人々の目に触れる機会が一気に増え、アクセシビリティに関する意見や追加機能など、改善提案が次々に寄せられた。これまでに1,000件を超える提案が集まった。Code for Japanと都が協議しながらアイデアを選び、機能強化と開発スピードの向上が図られた。

台湾のIT大臣オードリー・タン氏もアドバイス

開発途中からソースコードを全面的に公開して進めたプロジェクトはCode for Japanでも初めてだった。誰にでも幅広くサイトについて議論する機会を提供したことで、自発的に貢献したいという人々の力を結集でき、結果的にサイトの改良が促された。これはシビックテックの推進団体としても大きな驚きであった。

都は開発当初から見やすいWebデザインにこだわったことから、データの見せ方に関する意見を多く集めることができた。これもシビックテックの成果のひとつと捉えている。中学生が有益な改善点を提案した場合もあったし、中には台湾のIT大臣として知られるオードリー・タン氏によるアドバイスも含まれていた。

現在、このサイトのソースコードが他の自治体による感染症情報サイトにも広く活用されている。一般市民の積極的な参加により、デザインや機能がより使いやすいものに変更されるという画期的な事例として、シビックテックが脚光を浴びる大きな契機になったに違いない。

東京都の新型コロナウィルス感染症対策サイトはこちら。
https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

MM総研大賞について

「MM総研大賞」は、ICT分野の市場、産業の発展を促すきっかけとなることを目的に、MM総研が2004年に創設した表彰制度です。2020年度の今回が17回目になります。優れたICT技術で積極的に新商品、新市場の開拓に取り組んでいる企業を表彰するものです。

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