提供戸数は642万戸、業界再編と技術革新が進む
「全戸一括型マンションISPシェア調査」(2025年3月末)
2025年08月04日
■2025年3月末の全戸一括型マンションISPの提供戸数は642万戸
■つなぐネットコミュニケーションズが8年連続で首位。分譲・賃貸ともに新築中心に拡大
■安定した新築需要を背景に、堅調な普及が続く見通し
ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、2025年3月末時点の全戸一括型マンションISP(インターネット接続事業者)のシェア調査結果を発表した。本調査は、集合住宅の全戸にインターネット接続サービス(光回線ベース・棟内有線配線)を一括で導入・提供する事業者を対象とし、任意加入方式は含まない。市場シェア(データ1)は2025年3月末時点のサービス提供戸数が対象で、OEM提供分を除いている。
2025年3月末時点の全戸一括型マンションISPによるサービス提供戸数は641.7万戸で、前年同月末比55.2万戸の増加※1、成長率は9.4%となった(データ2)。2024年度(2024年4月~2025年3月)の同市場は堅調な伸びを見せつつも、前年度に続き既築物件での導入がやや鈍化した。事業者別ではつなぐネットコミュニケーションズ(東京都千代田区)が市場シェア17.9%で、8年連続の首位を維持した。2位はファイバーゲートの9.3%、3位はファミリーネット・ジャパン(東京都港区)の8.9%で、両社の順位が入れ替わった。つなぐネットコミュニケーションズは前年同月末比で8.6万戸増え、純増戸数ランキングでも1位を獲得(データ3)。2位はファイバーゲートで同6.7万戸増、3位はソニーネットワークコミュニケーションズコネクト(東京都品川区)で同5.9万戸増だった。
※1:集計数値の見直しなどにより2024年3月末以前の提供戸数を遡及修正しているため、前年度の発表数値と合わない場合がある
【データ1】全戸一括型マンションISPシェア(2025年3月末のサービス提供戸数)
【データ2】全戸一括型マンションISPによるサービス提供戸数の推移
【データ3】全戸一括型マンションISPの純増戸数ランキング(自社ブランド、上位5社)
事業者動向
つなぐネットコミュニケーションズ
アルテリアグループのつなぐネットコミュニケーションズは「UCOM光 レジデンス」「e-mansion」を提供する。2025年3月末の提供戸数が115.0万戸(前年同月末比8.6万戸増)でシェア1位となった。2024年度は新築分譲及び新築賃貸物件を中心に拡大し、入居者向け優先通信サービス「Connectix(コネクティクス)」の契約獲得も堅調に推移した。2025年1月からマルチメディアコンセントに挿すだけでつながる脱着式Wi-Fiの提供を開始。本体にはSSID(サービスセット識別子)やパスワードを簡単に変更できるディスプレー機能を搭載し、特許も取得している。そのほか10Gbpsサービスの提案を積極的に進めていく方針だ。今後は分譲・賃貸ともに新築物件の獲得強化に加え、既築賃貸物件の開拓にも注力していく。
ファイバーゲート
「FGBB」を提供するファイバーゲートは2025年3月末の提供戸数が59.4万戸(同6.7万戸増)で前年のシェア3位から2位に浮上した。2年連続で順位を上げ、存在感を強めている。純増戸数ランキングでも2位となった。既築の賃貸アパートに加え、新築物件の獲得が奏功した。2025年4月にはソニーネットワークコミュニケーションズ(東京都港区)と集合住宅向け光回線サービスで事業提携を発表。第1弾として、既築物件に全戸一括型と任意加入型の両機能を備えたハイブリッド型のインターネットサービスを展開する。多様化する通信ニーズに対応するため営業組織を事業別から地域別に再編し、今後は顧客との接点を広げていく方針だ。
ファミリーネット・ジャパン
「CYBERHOME(サイバーホーム)」を提供するファミリーネット・ジャパンは、2025年3月末の提供戸数が57.2万戸(同1.8万戸増)でシェア3位となった。インターネットの通信品質の高さを訴求し、分譲・賃貸ともに新築物件を中心に獲得。サービスを提供している物件では、回線の増設やスペック向上、回線キャリアの変更などの増強対応を積極的に進めている。さらにカスタマーセンターを24時間365日対応に拡充し、サポート体制を強化。インターネット接続サービスを軸にマンション向けDX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューション「アプリStation」や、東京電力グループとして再生エネルギー活用の支援や太陽光発電サービスなど、エネルギー関連サービスを含めて提案し事業拡大を進める。
D.U-NET
大和ハウスグループのD.U-NETは、2025年3月末の提供戸数が53.9万戸(同1.5万戸増)でシェア4位となった。2024年度は主に新築賃貸物件の導入が進んだ。大規模な賃貸物件を中心に10Gbpsサービスの導入を進めるほか、新築の小規模賃貸物件においても外線部分から10Gbps化を図り、高速通信を訴求する競合他社に対抗する。さらに2024年8月にはFlight PILOT(長崎県佐世保市)と大和ハウスグループ、大東建託グループ、ギガプライズの4者で、佐世保市と「災害時における無人航空機による協力に関する協定」を締結。その中でD.U-NETはドローンにアンテナの位置情報を指示する重要な役割を担う。今後は物件に設置する防犯カメラやセキュリティの機能開発にも注力し、物件管理業務の省力化を推進していく。
ギガプライズ
ギガプライズは本調査では除いているOEM提供分を含めると、2025年4月末時点※2の提供戸数は134.2万戸(2024年4月末比13.2万戸増)と好調に数を伸ばしている。主に小規模賃貸物件と大規模分譲物件への導入を狙う。大手ハウスメーカーなどへのOEM提供を通じた販売拡大も継続しつつ、地方の不動産管理会社への提案も強化している。さらにガス会社や施工管理会社など新たな販売パートナーの開拓にも注力している。2025年1月には親会社であるフリービットがソフトバンクと資本業務提携を締結。同時にTOB(株式公開買い付け)によりギガプライズを非公開化し、完全子会社化した。経営資源を集約し、グループ全体の企業価値向上を目指す。
※2:決算期変更に伴い、2023年度から開示数値の集計時点を4月末に変更した。
ソニーネットワークコミュニケーションズコネクト
「NURO 光 Connect」を提供するソニーネットワークコミュニケーションズコネクトは、純増戸数ランキングでは前年に続き3位を維持している。建物内まで光ファイバーを引き込む「光配線方式」による高い通信品質とソニーグループの信頼性とブランド力が強みだ。新築・既築ともに賃貸物件を中心に獲得を進めており、2024年度の成長率は前年同月末比で30%を遂げた。
市場動向
2024年度は全戸一括型マンションISP市場で大きな動きが相次いだ。2024年4月にはテンフィートライト(東京都中央区)が南海電設(大阪市)から社宅・学生寮向けインターネットサービスを吸収分割にて承継した。2025年1月にはフリービットとソフトバンクとの資本業務提携やギガプライズに対するTOBが行われた。さらに同年4月にはソニーネットワークコミュニケーションズがファイバーゲートとの協業を通じて、サービス領域の拡大に乗り出している。
業界再編に向けた動きが進む一方、2024年度は既築賃貸物件への導入が引き続き鈍化した。導入を進めやすい物件の対応は一巡したとみられ、現在残るのは全戸一括型インターネットを必要としない物件や、建て替えや取り壊しの近い築年数の古い物件が中心となっている。そのため既築賃貸物件への導入ペースは今後も緩やかに減っていくと予想される。
通信の高品質化ニーズの高まりを受けて、マンションISP各社では新築の大型物件を中心に10Gbpsサービスの提案を強化している。しかし全戸一括型マンションISP市場は賃貸物件が中心であり、かつ既築賃貸が約半数を占めている。価格に対する慎重な姿勢が根強く、価格競争が激しいこの市場では10Gbpsサービスの本格的な普及には時間を要するとみられる。
高速通信を実現するためのネットワーク機器の高度化も進んでおり、無線通信の新規格「Wi-Fi 7」に対応したマンション向け無線アクセスポイントの採用が一部で始まりつつある。また、既築物件を中心にインターホン設備の老朽化による入れ替えニーズも顕在化しており、IPインターホンの導入が進んでいる。Wi-Fi7やIPインターホンではRuijie NetworksやH3C、Akuvoxといった中国発のメーカーが存在感を強めている。
2025年度以降は既築賃貸物件への導入が横ばいで推移する一方、新築物件の竣工が安定的に進み、全戸一括型インターネットサービスの採用率が継続的に高まっていくとみられる。純増戸数も2024年度は55.2万戸で前年度の61.5万戸から6.3万戸減少したが、今後も新築物件を中心に一定の規模の導入が維持されれば、緩やかに回復する見通しだ。
■報道に際しての注意事項
1. 本プレスリリースは、MM総研が実施した市場調査の結果と分析から一部または全部を抜粋したものです。
2. 報道機関が引用する場合は、出典を「MM総研」と明記してください(MMは全角)。数値などは表ではなくグラフ化して掲載してください。
3. 報道機関以外が本プレスリリースの内容を引用・転載する場合は、MM総研による承諾が必要です。
4. MM総研の独自調査結果であり、公的機関の統計や企業の公表数値等と異なることがあります。また、作成時点におけるものであり、今後予告なしに変更されることがあります。
5. 本データを報道以外の以下用途で無断利用することを固く禁じます。
-プロモーション(広告・販売促進資料・ホームページ掲載・チラシなど外部に発信する資料・データ)
-セミナー・講演会
-その他、営業目的・営利目的での使用
6. 調査の詳細、研究員コメント、データ利活用などについては、担当者までお問い合わせ下さい。
■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。
本件に関するお問い合わせ先
(株)MM総研
担 当 : 加太、小野寺、川人
所在地 : 105-0011 東京都港区芝公園2-6-3 芝公園フロントタワー
連絡先 : 03-5777-0161