MM総研大賞2023 D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)賞障がい者や高齢者に配慮した「インクルーシブデザインの取り組み」
ソニー株式会社

2023年09月01日

多様な人々とともに
「世界を感動で満たす」未来を創造する

 

ソニーはほぼ全ての製品の商品化プロセスにインクルーシブデザインを導入する。単体のプロジェクトではなく、「ほぼ全ての製品プロジェクトに取り入れる」という全社的な取り組みは先進的だ。MM総研大賞では、多様性を尊重し、受容する社会を目指す取り組みを推進する企業・団体を評価対象とする「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)賞」を新設。今回の授賞には、この取り組みや考えが世の中に広まることへの期待を込めている。

障がい当事者の視点を「自分ごと」として考える

インクルーシブデザインはアクセシビリティ(年齢や障がいによる制約に関わらない使いやすさ)を特に必要とする高齢者や障がい者などに、制約があるユーザーとして企画・設計・開発段階から参加してもらい、商品・サービスを一緒に検討する手法。

ソニーではアクセシビリティの視点を社内全体に浸透させる手段として、インクルーシブデザインに取り組み、ワークショップや有識者による講習会を継続的に実施。2022年度末までに役員・マネジメントから新入社員まで1000人以上の社員が参加し、さらに新入社員研修にも組み込むなど、社員の意識を高めることに注力している。サステナビリティ推進部門アクセシビリティ推進室の武上有里氏は「制約がある方と共に行動すると私たちが見過ごしている不便やモノ・コトに気づくことができる。そして、その気づきは、状況次第では自分にもあてはまり、さらに社会課題にまで昇華することができる。そうやってみえてきた課題に対してソニーがどのようなソリューションを提案できるかを主軸に置いて意識改革を推進している」と言う。

アクセシビリティの取り組みの変遷

同社はインクルーシブデザインを突然取り入れようとしたわけではない。2013年にグローバルへ向けてダイバーシティ方針を制定。法規定に則るだけでなく、より使いやすいものを生み出すためには、アクセシビリティの考えをより推進すべきだとの考えが当時からあったという。2019年には障がい者が社会、ビジネス、経済における潜在的な価値を発揮できるような改革を、世界500社のビジネスリーダーが起こすことを目的としたネットワーク組織「The Valuable 500」に加盟。法的な取り組みとあわせて先進的な活動をしてきた。そのなかでインクルーシブデザインはイノベーションを創出できる手法であり、アクセシビリティを推進するための最適解であるという結論に至ったという。

しかし同社のような大規模な企業では、単発プロジェクトのみでは全社的な意識改革につながらないことは往々にしてある。前述のような研修参加などを積み重ねて社員のアクセシビリティの意識を向上させることと、動き始めた社員の活動を組織のマネジメントもエンドースすることにより、インクルーシブデザインを採用する土壌ができあがってきた。その延長線で「商品化プロセスへの導入」という次のフェーズに移る準備ができつつある。

世界を感動で満たすのに見過ごせない13億人

世界保健機関(WHO)によると、「世界の6人に1人にあたる13億人以上が障がいや加齢により何らかの制約を持っている」という。「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパス(存在意義)を掲げるソニーにとって、世界を感動で満たすためにはこの13億人は見過ごせない。2021年に障害者差別解消法が改正され、2024年4月1日から事業者による障がいのある人への合理的配慮の提供が義務化される。実現には制約のある人と対話を重ねて課題を「自分ごと」として認識し、ともに解決策を検討していくことが重要だ。対話からの気づきを重視するインクルーシブデザインは、この法改正を先き取りした手法といえる。同社が今後さらに商品・サービスへインクルーシブデザインを取り入れることで、「みんなが使いやすい、誰も排除しない」というダイバーシティ&インクルージョンな世の中になっていくことを期待したい。