ガバメントクラウド、国民の8割が「国産も使うべき」と国産事業者に期待

「ガバメントクラウドに関する国民意識調査」(2025年3月時点)

2025年06月12日

  • ガバメントクラウドの認知度は25%、「説明できる」は8%にとどまる
  • 安心安全の観点からガバメントクラウドには「国産クラウドを利用するべき」が81%
  • 88%の国民が「データ主権」を重視、主権を守れるクラウドを選ぶべきとの意識が顕著に
  • AI時代に向け国産クラウドを使う領域の整理、デリバリー体制などの仕組み作りが必要

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、2025年3月にデジタル庁などが推進する政府・自治体専用のクラウド環境「ガバメントクラウド(政府クラウド)」について国民意識調査をした。Webアンケートにより一般消費者2万1089人から回答を得た。
政府は2025年度末を目標に、自治体の基幹業務システムの標準化とクラウド移行を進めており、多くの治体が基盤としてガバメントクラウドを選択し、利用する見込み。調査からは認知度がまだ十分とは言えない状況であることや、個人データのセキュリティ意識の高さが明らかとなった。

ガバメントクラウドの認知度は25%、「説明できる」は8%にとどまる

調査からガバメントクラウドに対する一般消費者の認知度は25%となった(データ1)。自治体のガバメントクラウドへの移行が進む中で、「知らない」が多数派の状況にある。年代別にみると20代・30代の認知度がそれぞれ約30%と高く、年代が高くなるにつれ認知度は下がる傾向となった。若年層ではスマートフォンなどを通じてクラウドサービスの利用経験が多いことなども影響しているとみられる。地域別にみると、関東と四国で認知度が平均を上回る。特に香川県は認知度が32%で、都道府県別でトップとなった。初代デジタル相でガバメントクラウドを推進する立場にあった平井卓也氏の選挙区が香川県であることなども要因とみられる。
認知者のうち、ガバメントクラウドの「名前を聞いたことがある」人を除き、「内容を理解しており、説明できる」人となると8%に過ぎなかった。実際の理解度はさらに低いとみられ、例えば、認定されているクラウドベンダー名を正しく回答できる人は全体の5%であった。

【データ1】ガバメントクラウドの認知度(n=21,089)

安心安全の観点からガバメントクラウドには「国産クラウドを利用するべき」が81%

ガバメントクラウド(※1)には「国産クラウドを利用するべき」との回答が81%と多数派であった(データ2)。理由は「日本の法律・規制に合わせやすい」が58%と最も高かった。現時点だけでなく、将来的な法規制の変更にも柔軟に対応できるとみているようだ。次いで、「データが海外に流出しない」「セキュリティ面で安心できる」が続いた。国際情勢が不安定化するなかで、自治体が取り扱う個人情報については、国内で安心安全に管理してもらいたいという意識が働いているとみられる。
「海外クラウドを利用するべき」は19%と少数派となった。理由として「国内事業者の信用性が低い」「料金が安い」「技術が進んでいる」との回答が上位となった。

 【データ2】政府・自治体システムに利用するべきクラウド種別と理由

※1 ガバメントクラウドについて、政府や自治体がITシステムに利用する専用クラウド環境とし、例えば自治体がガバメントクラウドを利用した場合には、利用範囲によって以下情報がガバメントクラウドに保管される可能性があると説明し、回答を聴取した。
・住民基本台帳関連:氏名、年齢、住所、年金情報、選挙人情報など
・戸籍関連情報
・税金関連:固定資産税、住民税、軽自動車税など
・保険・福祉関連:国民健康保険、障がい者福祉、後期高齢者医療、介護保険など
・子ども・子育て関連:児童手当、児童扶養手当、子ども・子育て支援、就学など
・その他:生活保護、健康管理、印鑑など 

約9割の国民が「データ主権」を重視、主権を守れるクラウドを選ぶべきとの意識が顕著に

政府や自治体が管理するデータについて海外の法律や規制などの影響を受けないようにするなど、自国のデータを国内で管理する「データ主権」の動きは世界的に広まっている。特に欧州ではGDPR(EU=欧州連合=の一般データ保護規則)への対応のために必要な主権を担保した「ソブリンクラウド」という概念が浸透しており、ここ数年で日本でも話題になり始めている。今回の調査においても国民がソブリンクラウドに対してどの要素(主権)が重要と考えているか調査した(※2)。

調査対象とした6つの主権について、いずれの主権も「重要」と思う比率が約9割となった(データ3)。なかでも、データ主権は非常に優先度が高いという声が多く、次いで技術主権、システム主権となった。主権を担保できるクラウドを選ぶことが重要と考えられる。
国民が各主権を重要視する一方で、自治体への取り組みが「十分に実施できている」と評価する声は1割に満たなかった(データ4)。「不足している」「実施できていない」がいずれも約3割、そもそも「知らない」との回答も約4割となった。

個人情報(データ)活用することで便利にしてほしい分野を尋ねたところ、医療・健康、ライフライン(電気・ガス・水道)、消防・防災が上位となった。これらの用途で利用するデータの中でも、戸籍関連や国民健康保険などの情報は国産クラウドに保存すべきとの声が特に高い結果となった。主権を担保しながらデータを活用することで、社会インフラを支えてほしいという声が根強くあるとみられる。

今回の調査では、デジタルガバメントや自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中で、利便性の訴求がある一方で、データをどのように守るかなど安心・安全の観点での発信が少ないために、個人情報の管理などに不安を覚えている可能性が示唆された。政府や自治体には、現状の取り組みや今後の方針を丁寧に説明していく必要があるだろう。

※2 ソブリンクラウドについて現時点で明確な定義はなく、欧州政府や主要ベンダーがそれぞれに定義を主張している状況にある。MM総研ではこれらの定義を比較し、共通する6つの要素(主権)を抽出して調査した。

【データ3】クラウドに関する各主権の重要度

【データ3補足】各主権の定義

【データ4】居住する自治体における各主権に対しての取り組み状況(n=2,000)
 

AI時代に向け国産クラウドを使う領域の整理、デリバリー体制などの仕組み作りが必要

昨今、あらゆる業界・業務でAI(人工知能)活用が本格化しており、政府・自治体も活用し始めている。自民党の政策提言「デジタル・ニッポン2025」でも「ガバメントAI」を推進する旨が記載され、同時にAIやそのインフラのクラウドについては主権の重要性も語られるようになってきた。

現状、ガバメントクラウドに認定されているクラウドは海外4社と国産1社(条件付きで認定)に限られており、実質的には国産クラウドを選びにくい構造となっている。国産のガバメントクラウドの数を増やす取り組みや、デリバリー体制の整備などが重要となる。国内大手SIベンダーも「ソブリンクラウド」を打ち出しているが、実態としては外資系クラウドの製品をOEM(相手先ブランドによる生産)に近い形態で提供している。また自治体向けのパッケージベンダーも海外クラウドと提携し、製品提供を進めている。こうした状況から自治体側も国産のガバメントクラウドを選択しにくいのが実情である。

利便性やデリバリーなどの観点からもすべての用途を国産クラウドとするのは現実的ではない。一方で、政府がクラウドプログラムを特定重要物資(※4)のひとつと定めていることからも、国産クラウドを推奨するべき用途などを整理することが必要となるだろう。

※3 海外4社のサービスはAmazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure。国産クラウドはさくらインターネットのさくらのクラウド
※4 特定重要物資とは、経済安全保障推進法で定められている「国民の生存に必要不可欠な又は広く国民生活・経済活動が依拠している重要な物資」を指す。政府はこの物資の安定供給確保に取り組む民間事業者等を支援し、サプライチェーンの強靱化を図っている。クラウドプログラム含む12物資が指定されている。2023年から順次支援先を認定している。

以上

調査概要
調査対象:一般消費者
調査方法:Webアンケート調査(スクリーニング調査と本調査の二段階調査)
回答件数:スクリーニング調査 2万1089人、本調査2000人
本調査移行条件:「①ガバメントクラウドを認知」かつ「②性年齢を人口構成にあわせて割付」とした。
調査期間:2025年3月
留意事項:集計分析にあたっては性別・年代で人口構成に合わせてウエートバック集計をしている。

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