デジタル化が拓く賃貸物件の防災と利便性

集合住宅のデジタルツール導入実態調査(2024年11月時点)

2025年01月28日

■賃貸オーナーの約4割が所有する物件にデジタルツールを導入
■防犯カメラなどセキュリティツールの導入が先行、入居率向上にも寄与
■「防災意識は高い」オーナーが6割、その半数がICT活用に積極的

ⅠCT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は賃貸アパート・賃貸マンションのオーナーを対象にWebアンケートを実施し、2024年11月時点の賃貸集合住宅におけるデジタルツールの導入実態をまとめた。本調査は棟単位で所有するオーナーの導入状況を分析した(区分所有の分譲賃貸オーナーは対象外)。デジタルツールとは防犯カメラやスマートロック、スマートセンサー、全戸一括型インターネット、電気自動車(EV)充電スタンドなどを指し、入居者が個別に購入するものではなくオーナーが共有部や専有部に設置する情報通信機器やサービスを対象とした。

賃貸オーナー2,189人のうち、デジタルツールの導入率は39%を占めた(データ1)。複数の物件を所有している場合は、1棟でも何らかの機器やシステムを導入していれば「導入」とカウントしている。築年数別に導入率を比較すると、築年数が浅い物件ほどデジタルツールの導入率が高い傾向がみられた。具体的には築5年以内の物件では導入率が7割を超えている一方で、築20年以上の物件では2割未満にとどまる。築年数が浅い物件ほどデジタルツールを取り入れ、入居者の利便性向上や管理業務の効率化を図ろうとする意識が高い。築年数が古い物件では費用対効果の不透明さや価格の高さのほか、メンテナンスの手間などを理由にデジタルツールの導入が進んでいない現状が明らかとなった。

セキュリティ商材の導入が先行、入居率向上に寄与

導入しているデジタルツールは防犯カメラが17%と最も多く、全戸一括型インターネット、宅配ボックス、エントランスのオートロック、太陽光発電システム、スマートロックが続いた(データ2)。2023年10月末に実施した前回調査と異なり、今回は「棟単位で所有するオーナー」を調査対象としたため単純な比較はできないが、どちらの調査でもセキュリティ対策を意識した導入が先行している。全戸一括型インターネットは居住者の満足度向上や物件の付加価値向上、入居率向上の手段として有効である。いずれも築年数が浅い物件ほどデジタルツールの導入率が高く、新築物件では標準採用されている。

各種デジタルツールについて 「導入率」と「入居率向上の導入効果」 の関係性を分析した(データ3)。散布図の右上にある「全戸一括型インターネット」「エントランスのオートロック」「宅配ボックス」「防犯カメラ」は導入率が高く、入居率の向上に貢献していることがわかる。これらは入居者の利便性や安全性を高める設備であり、すでに多くの物件で導入されている。防犯カメラやエントランスのオートロックは、入居者にとってセキュリティ向上に欠かせない重要な要素だ。そのほか、玄関先やガスメーターのボックスなどに配達物を置く「置き配」サービスの普及に伴い、荷物の盗難や誤配達といったトラブルも増加していることから、未然に防ぐ手段として防犯カメラの設置やエントランスのオートロックの導入が効果的だと考えられる。

一方、散布図の左上にあるスマートホーム関連の「スマートロック」「スマートリモコン」「スマートセンサー」や、「電気自動車(EV)充電スタンド」「入居者ポータルサイト」などの導入率は低いものの、導入した物件では入居率の向上に貢献しており、サービス提供事業者にとって今後の成長分野とみられる。左下の「デジタルサイネージ」は物件の利便性に直接関与しないため、入居率向上への寄与が限定的と考えられる。ただし、共用部での情報発信など今後の活用次第では効果が見込める可能性があり、効果的な用途提案が必要だ。

導入目的と導入効果の関係性をみると、全戸一括型インターネットや電気自動車(EV)充電スタンド、宅配ボックスなどのデジタルツールは、入居率向上を目的に導入した割合が高く、実際に入居率の向上に寄与している傾向が強い。これらのデジタルツールは入居者の利便性に直接かかわるため、導入が入居者の満足度向上につながっていると考えられる。太陽光発電システムやデジタルサイネージは入居率向上を目的とする割合も入居率向上の効果も低い。これらは環境配慮や管理の利便性向上を目的に導入されることが多く、直接的な入居率向上には結びついていない可能性が高い。

防災意識が高い賃貸オーナーはデジタル活用に積極的

賃貸オーナーに所有物件に導入したいサービスの導入意向を聞いたところ、「防災・避難訓練の支援サービス」「カーシェアリングサービス」「自転車シェアリングサービス」「医療・福祉サービス(訪問看護・オンライン診療など)」「住民同士のコミュニティ形成支援」がいずれも3割を超えた。賃貸オーナーの年代や物件の築年数別にみると、ばらつきはあるものの「防災・避難訓練の支援サービス」はいずれの層でも上位に挙がった。近年の自然災害の増加を背景に、防災意識が幅広い層で高まっていることがうかがえる。

何らかのデジタルツールを導入または検討している賃貸オーナー750人のうち、6割が「防災意識は高い」と回答した(データ4)。防災意識が高い賃貸オーナーはコミュニケーションツールの活用やメール、SNS、ポータルサイトの活用などのデジタル活用の割合が50%と過半数に達し、一方、「どちらとも言えない」または「防災意識は低い」と回答した賃貸オーナーの活用割合は19%と2割に満たなかった(データ5)。具体的な取り組みとして「共用スペースや非常口の避難経路案内の整備」が38%で最も高く、「防災マニュアルの作成・配布」「地域の防災意識や自治体との連携」「緊急時用の備蓄品の準備・管理」がいずれも約3割と続いた(データ6)。デジタルツールに関する取り組みでは、「災害時に迅速に連絡を取るためのコミュニケーションツールを導入」「メールやSNS、ポータルサイトなどを活用して、居住者に防災情報を定期配信」がそれぞれ2割を超えた。防災意識が高いオーナーは災害時の連絡手段や防災情報の提供など、デジタルツールの活用に積極的であることが推察される。

■調査概要
調査対象:全国18歳以上の賃貸アパート・賃貸マンションのオーナー(棟単位の所有者)
回答件数:
 予備調査2,189人
 本調査  750人 ※物件に何らかのデジタルツールを導入または検討している回答者を抽出した
調査手法:Webアンケート
調査期間:2024年11月11~14日


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