マイナ保険証・電子処方箋の利用は増加するも 定着にはサポートの見直しも
「医療受診時のデジタル活用実態調査2024」(2024年12月末時点)
2024年12月26日
- 2024年に医療機関を受診した人のマイナ保険証利用率は59.5%
- 電子処方箋は大手薬局を中心に導入が進み、認知率は56.5%と過半数超え、利用率は8.2%
- 救急・災害など非常時のマイナ保険証活用が定着のカギか
ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は一般生活者を対象にWebアンケート調査を実施し、2024年12月末時点の医療受診時のデジタルツールの活用状況をまとめた。本調査は、2024年の1年間で医療機関を受診し薬を処方されたことがある500人(うち90%以上が受診時期は半年以内)を対象とした。
調査結果によると、2024年に医療機関を受診し薬を処方されたことがある人のうち、医療機関や薬局での「従来の保険証(または資格確認書)を使わず、マイナンバーカードを利用(以下マイナ保険証利用*)」した回答者の割合は29.5%と、前回(2023年11月末時点)と比較して19.9ポイント上昇した。「どちらも利用」した回答者を含めると59.5%と約6割にのぼった。一方、電子処方箋では認知率は56.6%と過半数を超えたものの、利用したことがある人はわずか8.2%にとどまった(データ1)。
*マイナンバーカードと健康保険証を紐づけ、マイナンバーカードを保険証として利用することを示す
【データ1】マイナ保険証の利用有無と電子処方箋の認知・利用有無
日本においても様々な業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいるが、医療分野はDX化がとりわけ遅れているとされている。新型コロナウイルス感染症流行時にも医療情報がうまく収集できず、医療現場の混乱を招く一因となっていた。そうした状況を踏まえ、政府は「医療DX推進本部」を2022年9月に設置し、医療DX化、効率化、医療資源の適正な利用に向けた環境構築を進めている。その中で、「電子カルテ・医療情報基盤」「診療報酬改定DX」に関して、厚生労働省の推進チーム内にタスクフォースを設置した。
「電子カルテ・医療情報基盤」は、現在バラバラに存在する診療・薬剤・介護情報など医療に関連する情報を閲覧・共有できるようにすることが目的だ。医療情報基盤の構築に向けた取り組みの1つに一般生活者にも馴染みのある紙の処方箋の電子化が含まれている。
政府はマイナ保険証とともに電子処方箋の普及も推進してきた。2024年12月からはマイナ保険証を基本とする仕組みへ本格移行したが、電子処方箋は2023年1月から医療機関・薬局での運用が始まり2年が経過した現在も導入は一部の医療機関にとどまっている。
◆非常時のマイナンバーカード利用が大きなメリットに
マイナ保険証を利用していない人(148人)にその理由を確認したところ、「従来の保険証(または資格確認書)がまだ使える」が47.3%、次いで「マイナ保険証を使うメリットが分からない」が35.8%と、マイナ保険証に否定的ではないものの、積極的に使うべき理由を感じられていないことがうかがえる(データ2)。
【データ2】マイナ保険証を利用していない理由複数回答(複数回答,5ポイント以上の項目を抜粋)
マイナ保険証利用のメリットはこれまで「普段の医療機関受診」「薬剤情報参照」「医療費控除申請の簡略化」など、保険証を使う頻度の高い人がメリットを感じやすい事柄が主だったが、政府はより幅広い場面での活用を目指して様々な取り組みを進めている。その1つが「非常時におけるマイナンバーカード利用」だ。
2024年12月から医療機関で緊急時、患者の同意取得が困難な場合でもマイナ保険証による本人確認と医療情報などの閲覧が可能となった。これにより緊急時の輸血や投薬などの処置をスムーズに進めることができ、救急医療の質の向上や医療従事者の負担軽減が期待できる。実際、回答者の約半数が「病院においては、患者の同意取得が困難な場合でも、医療情報が閲覧できる」ことが自身または社会的な利点になると回答した(データ3)。今後さらに救急搬送時や災害時のマイナ保険証活用の整備が進めば、より普及が進むだろう。
【データ3】「非常時におけるマイナンバーカード利用」について利点になると思われるもの(複数回答)
◆薬局で電子処方箋の導入が進む一方、医療機関でも高いニーズ
マイナ保険証と比較すると利用率はまだ低いものの、電子処方箋について「見聞きしたことはない」とした回答者の割合は43.5%となり、認知率は56.5%と過半数を超えた。利用率も前回調査に比べ5.0ポイント上昇したものの、8.2%にとどまった(データ1)。今後の利用意向も38.5%と5.4ポイント上昇した。電子処方箋に対応している医療機関や薬局への変更意向では、薬局は14.9%にとどまるものの、医療機関は37.9%にのぼり、医療機関での電子処方箋対応のニーズが高いことがわかった(データ4)。
電子処方箋の運用開始から2年経ち、大手薬局・ドラッグストアチェーンやAmazonファーマシー(2024年7月サービス開始)が電子処方箋を利用したオンライン服薬指導や配送などのサービスを広げている。厚生労働省の調べによると、2024年12月8日時点での電子処方箋運用施設は3万6000件を超えた。その一方で医療機関では8000件ほどにとどまっている。
【データ4】電子処方箋の利用意向と電子処方箋対応医療機関・薬局の変更意向
◆医療機関のDX化へのより手厚いサポートが必要か
今回の調査により、一般生活者側のマイナ保険証への理解や電子処方箋のニーズが高まっていることがわかった。しかし、一般的な企業と比較してデジタル化が大きく遅れているとされている医療機関にとってマイナ保険証と電子処方箋への対応は、コスト面のみならず運用面の負担も大きいとみられる。本来、医療従事者にもメリットが大きいはずのマイナ保険証、電子処方箋を普及させるには、医療機関へのサポートを見直す必要があるのではないか。引き続き一般生活者の医療ニーズを探るとともに、医療機関側の課題やニーズにも注目していきたい。
以上
■調査概要
- 調査対象:2024年の1年間で医療機関を受診し薬を処方されたことがある全国18~79歳の男女
- 回答件数:予備調査(3000人)、本調査(500人)
- 調査方法:Webアンケート
- 調査期間:2024年12月19~20日
■報道に際しての注意事項
- 本プレスリリースは、MM総研が実施した市場調査の結果と分析について、報道機関限定で詳細データを提供するものです。
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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。
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