ICTを活用した授業スタイル変革の格差広がる

「小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用動向調査」(2024年1月時点)

2024年02月16日

  • コラボレーション機能を活用する自治体が約6割と前回調査から20ポイント以上増加
  • 授業での端末用途数が7つ以上の自治体が44%と前回調査から31ポイント増加
  • 一方で、用途数が1~2つの自治体は24%と5ポイント減にとどまり、格差は広がった
  • 生成AIを推奨する自治体は約1割、推奨率とGIGAスクール端末の用途数に正の相関

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、GIGAスクール構想実現に向けたICT環境(GIGAスクール環境)(※1)の利用状況を調査した。全国1,741のすべての自治体(対象は教育委員会)に電話アンケートを実施し、1,101団体から回答を得た。

調査結果から、この1年あまりで1人1台端末を毎日利用する自治体の割合が増え用途の幅も広がったことから、ICTが教育に定着し始めていることがわかった。活用度が高いほど、生成AI(人工知能)などの新たな技術の需要性が高いこともうかがえた。一方で、活用が進んでいない自治体もあり、自治体間の温度差は引き続き残っている。

※1 児童生徒の主体的・創造的な学びを支えるデジタル基盤。学校内の高速インターネット接続、クラウド活用、1人1台端末が柱である。

◆授業でコラボレーション機能を活用する自治体が約6割

GIGAスクール構想を契機に児童生徒1人1台端末(以下GIGAスクール端末)が配備された。GIGAスクール端末を毎日利用している自治体の割合をシーン別にみると、授業が77%、端末の持ち帰りが24%、教員による授業以外での利用が40%となった(データ1)。授業で毎日利用する割合は前回調査の2022年12月時点から下がることなく、この1年でより定着していることがうかがえる。持ち帰りは前回よりも7ポイント増えたが、まだ全体の4分の1にとどまり、多くの自治体で「端末=授業で利用するもの」となっている。学びの保障の観点からも、端末を家庭でも当たり前に使える環境を整えていく必要があろう。

【データ1】GIGAスクール端末を毎日利用している自治体の割合

GIGAスクール端末の授業での利用用途について、複数回答で自治体に回答を求めた。2021年10月時点(※2)では1自治体あたり利用用途の数としては平均1.7だったが、前回調査では3.8、今回の調査で4.9と着実に増えた。GIGAスクール端末の用途は時間とともに広がっている(データ2 左グラフ)

用途別の利用率をみると、どの用途も自治体数ベースで約6 ~8割弱となった(データ2 右グラフ)。利用率はいずれの用途でも伸びている。大きい順に「先生と児童生徒のやりとり」が24ポイント増、「児童生徒同士のやりとり」が23ポイント増と、自分以外の人とコラボレーションする用途で利用が増えた。

教員と児童生徒のやりとりは、課題の配付・回収・採点、アンケート機能を利用した健康確認、Web会議機能で登校できない児童生徒の対応が上位を占めた。複数回答であり、やりとりをしている自治体のうち約8割がこうした利用をしている。

児童生徒同士のやり取りでは、共同編集機能を利用したグループワーク、アウトプットの共有をしてコメントし合う、クラスメイトのアウトプットをみて自分の考えを深めるなどの用途がいずれも約9割となり、上位となった。一方で、チャット機能を利用するとの回答は約2割で、児童生徒同士でのチャット利用はあまり進んでいない。

※2 平均用途数:複数回答で授業で1人1台端末の利用頻度の高い用途を尋ねた。回答した用途数を自治体数で割り、平均値を算出した。

【データ2】GIGAスクール端末の授業での平均用途数(左)と自治体数ベースの用途別利用率(右)

◆4分の1の自治体は用途が少ないまま維持

授業における用途数について自治体の分布をみると、7つ以上で利用している自治体が44%と前回調査から1年間で31ポイント増えた(データ3)。用途数が3つ以上の自治体の構成が変化していることから、使い始めたことでより多くのシーンで利用するなど、活用度合を上げていることがうかがえる。

一方で、1~2つの用途で利用している自治体は24%で、前回調査から5ポイント減にとどまった。なかには用途数を減らしている自治体もあるなど、GIGAスクール端末の活用に消極的な様子も見られた。

【データ3】授業における用途数における自治体構成比の推移

◆教員のICTスキル習得には「時間が足りない」が6割超

端末の活用度を上げるうえでの課題は、「教員のICTスキル」が50%で、前回調査からは11ポイント減となった。改善傾向はみられるものの、引き続き最大の課題となっている。

教員のICTスキル不足を課題とした自治体にその要因を尋ねると「習得のための時間が足りていない」が64%、「デジタルに抵抗感がある教員が多い/メリットを感じない」が57%となった(データ4)。教員にスキル習得やデジタルのメリットを訴求する時間をつくり出す必要がある。文部科学省は教員定数の改善や特別免許状なども含めた外部人材の登用、校務DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化を推進するなど、リソース不足解消に対策を進めている。

一方、教員のICTスキルを上げるうえで「気軽に相談できる環境がない」「校長などリーダーの積極性が足りない、後押しがない」「スキル習得のためのコンテンツがない」といった回答は1割程度にとどまった。スキル習得の環境は大きな課題になっていないことがわかった。

【データ4】教員のICTスキルが不足している要因(n=546、複数回答)

◆生成AIの活用を「推奨」する自治体は約1割

公立小中学校でもOpenAI社のChatGPTやGoogleのGemini(旧Bard)をはじめとする生成AIの活用が期待されている。そこで生成AI活用の推進・制限の状況について尋ねた。児童生徒に対しては、「活用を推奨」が7%と少なく、「活用を制限」が19%、残りの74%は「特に推奨や制限はしていない」(データ5-1)。一方、教員に対しては、推奨が14%、制限が8%と、児童生徒よりは推奨する方向である。

生成AIを活用する上での課題は、「情報の正確性」「ガイドラインの未整備」「著作権の侵害」「個人情報の漏洩」などが4~5割となり、上位を占めた(複数回答)。文部科学省は2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を出し、これらの課題にも触れたうえで、限定的な利用から始めることを推奨している。生成AIのパイロット校を定め、事例を横展開していく方針だ。

また、暫定ガイドライン公表前の2023年5月調査では、児童生徒・教員のいずれに対しても推奨する自治体は1%未満だった。ガイドライン発表により「活用をしてみようという自治体が出てきた」とみられる。

【データ5-1】生成AI活用について推進・制限の状況(n=1,101)
 

教員に対する生成AIの活用推奨・制限の状況を、授業における端末用途数別に分析した(※3)ところ、用途数が多い自治体ほど推奨する割合が高くなる相関関係が読み取れた(データ5-2)。本調査結果からは因果関係の証明までは至らないが、GIGAスクール環境が整備され、授業でのデジタル活用を進めた結果、自治体が「教育ではデジタルが有用である」とポジティブにとらえている可能性を示唆する結果となった。

 ※3 データ3の2024年1月の結果と、データ4-1の教員の利用をクロス集計した

【データ5-2】教員の生成AI活用について推進・制限の状況(授業における端末用途数別)

政府は、2026年度に3rd GIGA(※4)での支援の在り方を示すとしている。この際に判断基準となるのがGIGAスクール環境の活用状況やNext GIGAでの端末更新を含めた環境整備の状況だ。「教育DXに係るKPIの方向性」として具体的な数値目標も示し始めた。

調査結果から、GIGAスクール環境の活用は全体として着実に進んでいることが分かった。ただし、一部の自治体では変化が見られなくなってきている。3rd GIGAを見据え、こうした自治体の活用状況や課題を項目ごとに数値で浮き彫りにし、それぞれに適したきめの細かい支援が求められる。

※4 2025年度から2026年度に本格化する端末更新をNext GIGA、その更に次の更新を3rd GIGAとしている。

 

■調査概要

1.調査対象:全国自治体1,741の教育委員会(1,738委員会)
2.回答件数:1,101件
3.調査方法:電話による聞き取り、一部e-mailやFAXによる調査票の送付・回収を併用
4.調査時期:2023年11月~2024年1月  

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株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

 

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