デジタル導入が集合住宅のスタンダードに
「集合住宅のデジタルツール導入実態調査」(2023年10月末)
2023年12月19日
■防犯カメラやエントランスのオートロックなど、セキュリティツールの導入が先行
■築浅物件への投資が高く、コロナ後も増加傾向
■デジタルツールがもたらす収益向上効果、オーナーへの訴求が普及のカギ
ⅠCT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、2023年10月末時点の賃貸集合住宅におけるデジタルツールの導入実態をまとめた。賃貸アパート・賃貸マンションのオーナー1,818人を対象に実施したWebアンケートの結果をもとに分析した。デジタルツールとは防犯カメラやスマートロック、スマートセンサー、全戸一括型インターネット、電気自動車(EV)充電スタンドなどの情報通信技術を使用した機器やサービスを指す。入居者が個別に購入するものではなく、オーナーが一括購入し共有部および専有部に設置しているものを対象とした。
賃貸オーナー1,818人のうち、デジタルツールの導入率※は37%を占めた。導入しているデジタルツールは防犯カメラが17%と最も多く、エントランスのオートロック、宅配ボックス、全戸一括型インターネットが続いた(データ1)。なかでも防犯カメラやスマートロックなどのセキュリティツールの導入が先行。導入効果はどちらもセキュリティ向上をはじめ、「居住者の満足度が上がった」という回答が多くみられ物件の付加価値を上げるツールとして大きな役割を担っている。デジタルツール全般で需要が高く、「検討している」も含めるといずれの機器やサービスも約2割を占め、今後も普及が進んでいくとみられる。
※複数の物件を所有している場合は、1棟でも何らかの機器やシステムを導入していれば「導入」とみなしている。
個別の住居に設置するスマートロックでは、導入予定時期が不明の回答者を除く検討者(n=159)の約7割が2024年に導入予定と回答しており、セキュリティに対する関心の高まりがうかがえる。警察庁が発表した「侵入窃盗の発生場所別認知件数(2022年)」では36,588件のうち集合住宅が1割を超え、集合住宅においても防犯対策は必須と言える。
セキュリティ同様に関心の高い全戸一括型インターネットは、在宅勤務をはじめ動画配信サービスの視聴やオンラインゲームなどの利用による通信量の増加により、居住者から高速かつ安定した回線が求められている。2023年10月に全国賃貸住宅新聞社(東京都中央区)が発表した「入居者に人気の設備ランキング2023 付加価値編」(出典:全国賃貸住宅新聞 2023年10月16号)では、単身者向けとファミリー向け共に「インターネット無料」が首位だったことからもニーズの高さがうかがえる。全戸一括型インターネットの導入目的を聞いたところ、「物件の付加価値を上げるため」(29%)が最も多かった。次いで「居住者の満足度を上げるため」「入居率を上げるため」と続き、物件の付加価値を上げるツールとして認識されていることがわかった。
全戸一括型インターネットの導入効果が期待される中、物件に配管がないなどの理由により新たなインターネットサービスを利用できなかったり、居住者の集中利用により通信速度が遅くなったりと課題も多い。こうした課題解決を図るべく、2023年11月に集合住宅デジタル高度化協議会(CDEfC:シーデック)が設立された。江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授)が理事長を務め、マンションISP(インターネットサービスプロバイダー)やケーブルテレビ事業者などが参画。同協議会は集合住宅のインターネットを中心としたデジタル高度化を推進し、賃貸集合住宅の入居者の満足度向上、管理側の運営効率の向上、物件の資産価値の向上に力を入れる。
築浅物件への投資が高く、コロナ後も増加傾向
集合住宅におけるデジタルツールへの年間投資額について、2019年(コロナ前)、2020年(コロナ拡大期)、2023年(現在)のそれぞれの年で築年数別に分析した(データ2)。築年数が浅い物件ほどデジタルツールへの年間投資額が増加しており、築10年未満の物件ではコロナ前の2019年から2023年にかけて1棟あたり24万円増加している。ここ数年で賃貸オーナーのデジタルツールに対する関心がより高まり、新築時に導入することがスタンダードになってきたことから、新しい物件ほどデジタル武装が欠かせないと賃貸オーナーも投資に前向きになっていると考えられる。築10~20年未満は微増、築20年以上の物件におけるデジタルツール年間投資額は横ばいだった。
最寄り駅からの徒歩時間別にみると、徒歩5分未満の物件では2019年から2023年にかけて32万円増加している。競争が激化する駅近物件では、築浅物件と同様に競争優位性を確保するためのツールとして認識されていると考えられる。一般的に駅から距離が遠い賃貸集合住宅は入居検討者から敬遠されがちだが、デジタルツールの導入により入居率や家賃収入の増加に寄与するものとして認識されている。徒歩10分以上の物件では、5~10分未満の物件よりも年間投資額のベースが高いことからもデジタルツールの導入が差別化の要因となっていることが明らかだ。
デジタルツールがもたらす収益向上効果、オーナーへの訴求が普及のカギ
集合住宅にデジタルツールを導入しない賃貸オーナーに理由を聞いたところ、「価格が高いから」「費用対効果がわからないから」「製品・サービスがよくわからないから」が上位となった(データ4)。価格が高いという理由に対しては、デジタルツールがもたらす収益向上のメリットを示すことで解決できるだろう。
導入が先行する賃貸集合住宅でのデジタルツールの導入効果は、セキュリティ向上と居住者の満足度向上が共通している(データ5)。宅配ボックスと全戸一括型インターネットを導入した賃貸オーナーは、「入居率が上がった」と回答した。集合住宅向けにデジタルツールを提供する事業者は、賃貸オーナーに対してセキュリティ向上による盗難やトラブルの低減、居住者の利便性を高めることによる長期的な満足度向上、入居率の向上など費用対効果を具体的に明示する必要がある。導入に消極的な賃貸オーナーにいかに訴求できるかが、デジタルツール普及のカギを握っている。
■調査概要
調査対象:全国18歳以上の賃貸アパート・賃貸マンションのオーナー(所有者)
回答件数:
予備調査1,818人
本調査 750人 ※物件に何らかのデジタルツールを導入または検討している回答者を抽出した
調査手法:Webアンケート
調査期間:2023年10月26日~31日
■報道に際しての注意事項
- 本プレスリリースは、MM総研が実施した市場調査の結果と分析について、報道機関限定で詳細データを提供するものです。
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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。
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