電子処方箋の利用はわずかだが、7割がマイナ保険証併用

「医療受診時のデジタル活用実態調査」(2023年11月末時点)

2023年12月12日

■2023年1月から運用が始まった電子処方箋の一般認知率は44.2%、利用は3.2%

■電子処方箋利用者のマイナ保険証利用率は70.9%

■電子処方箋とマイナ保険証併用でさらにメリットが広がる

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は一般生活者を対象にWebアンケート調査を実施し、2023年11月末時点の医療受診時のデジタルツールの活用状況をまとめた。本調査は、直近1年間で医療機関を受診し薬を処方されたことがある1,800人(うち90%以上が受診時期は半年以内)を対象とした。

 

調査結果によると、直近1年間で医療機関を受診し薬を処方されたことがある人のうち、電子処方箋は「見聞きしたこともない」が55.8%と半数を超え、利用したことがあるのはわずか3.2%にとどまった(データ1)。一方、医療機関や薬局での「従来の保険証を使わず、マイナンバーカードを利用(以下マイナ保険証利用*)」は9.6%、「従来の保険証とどちらも利用」(21.5%)も含めて、マイナ保険証利用率は31.1%だった。

*マイナンバーカードと健康保険証を紐づけ、マイナンバーカードを保険証として利用することを示す

 

【データ1】 電子処方箋の認知・利用有無とマイナ保険証の利用有無

 

日本においても様々な業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進んでいるが、医療分野はDX化がとりわけ遅れているとされている。新型コロナウイルス感染症流行時にも医療情報がうまく収集できず、医療現場の混乱を招く一因となっていた。そういった状況を踏まえ、政府は「医療DX推進本部」を2022年9月に設置し、医療DX化、効率化、医療資源の適正な利用に向けた環境構築を進めている。その中で、「電子カルテ・医療情報基盤」「診療報酬改定DX」に関して、厚生労働省の推進チーム内にタスクフォースを設置した。

 

「電子カルテ・医療情報基盤」は、現在バラバラに存在する診療・薬剤・介護情報など医療に関連する情報を閲覧・共有できるようにすることが目的だ。医療情報基盤の構築に向けた取り組みの1つに一般生活者にも馴染みのある紙の処方箋の電子化が含まれている。

 

電子処方箋は2023年1月から医療機関・薬局での運用が始まり、マイナ保険証の利用は当初2023年4月を目指していたものの費用などの問題から普及が進まず、2023年9月まで猶予期間が設けられた。政府はそれぞれ2024年度中の普及を目指しているが、医療機関などからは変わらず導入に消極的な声があがっている。

 

◆電子処方箋利用者はデジタルへの親和性が高い

一般生活者の認知・利用率が低い電子処方箋だが、認知・利用別で分析したデータを見ると、電子処方箋を利用したことがある層は「マイナ保険証利用」率が約70%と高い(データ2)。さらに、医療を受診する際の診療予約、処方された薬の情報管理、医療費の支払いといったシーンではデジタルツールの利用率が高く、デジタルへの親和性の高さが示された。電子処方箋を「利用したことがある」割合は、「東京圏(1都3県)」在住者、「継続受診先数が多い」といった属性の中で高い傾向にあった。

 

【データ2】マイナ保険証などデジタルツール利用状況(複数回答,一部抜粋)

 

 

◆電子処方箋とマイナ保険証併用でさらにメリットが広がる

電子処方箋でできることを提示し、利点と思う項目を聞いたところ、下記4つがいずれの層でも上位となった(データ3)

①紙の処方箋の提出が不要となり、薬局での受付期限が過ぎてしまう・紛失による再発行が防げる(全体:28.2%)

②服用している薬の情報を正確に医療従事者が把握できるため、併用禁忌・重複投薬を防ぎやすくなる(全体:29.2%)

③服用している薬の情報を正確に医療従事者が把握できるため、医療費負担が減る可能性がある(全体:22.6%)

④薬剤師の業務が効率化され、薬局での待ち時間が短くなる(全体:24.9%)

 

電子処方箋を「利用したことがある」層で①が利点になるとの回答は約60%に上った。利用したことがない層でも上位の結果であり、現在多くの医療機関・薬局利用者が不便さを感じていることが分かる

 

利点と思われることの上位4項目のうち①④はいずれも医療者・一般生活者ともに大きなメリットとなり得る。②③は一般生活者側ではメリットが見えにくいものであるが、関心が高い項目であることが窺える。また、この2つに加え、マイナ保険証やマイナンバーカード所有者の個人向けサイト「マイナポータル」を利用することで、過去の処方薬、健康診断、予防接種の情報を組み合わせて確認できるようになるため、より適切な医療を受けられる環境ができるという点は、さらに大きなメリットとして捉えることができるのではないか。

 

【データ3】電子処方箋で利点と思うこと(複数回答、上位項目を抜粋)

 

 

処方箋のデジタル化はマイナ保険証の利用促進にも

今回の調査により、一般生活者側の電子処方箋に対するニーズは高いことがわかった。電子処方箋の利用意向がある人の中では、普段利用している医療機関・薬局を電子処方箋対応の施設に変更を検討すると回答が16.7%、変更を検討するまで含めると37.4%に上った。

 

電子処方箋のメリットである「紙の処方箋の提出が不要」「薬剤師の業務が効率化」は一般利用者もメリットを実感しやすく、導入のハードルはマイナ保険証と比較して低いだろう。電子処方箋を通じてデジタル化に慣れることで、マイナ保険証(マイナンバーカード)の普及も加速する可能性が見えた。

しかし、電子処方箋、マイナ保険証ともに施設での導入にかかる費用負担が大きく、普及が進んでいない状況が続いている。電子処方箋、マイナ保険証と同じく2024年内に施行される診療報酬改定では医療DX化を促進させるような内容が盛り込まれるとされており、医療機関・薬局が積極的に導入に踏み込めるような改定がなされることを期待したい。

 

■調査概要

調査対象:全国18~79歳の直近1年間で医療機関を受診し薬を処方されたことがある人

回答件数:予備調査(4,338人)、本調査(1,800人)

調査方法:Webアンケート

調査期間:2023年11月17~21日


■報道に際しての注意事項

  1. 本プレスリリースは、MM総研が実施した市場調査の結果と分析について、報道機関限定で詳細データを提供するものです。
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■MM総研について

  1. 株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

 

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