小中学校のICTインフラ、大型更新検討が始まる

「小中GIGAスクールにおけるICT整備動向調査」(2023年5月時点)

2023年08月01日

■児童生徒の端末更新に「政府予算を想定」する自治体が9割以上を占める
■個人所有の端末利用を視野に入れる自治体は約1割にとどまる
■次世代校務支援システムでは「クラウドを利用する」が約8割
■生徒数が少ない一部地域の教育委員会で生成AIの活用を推奨するケースもあった

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称 MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、児童生徒に1人1台の学習端末環境を実現する文部科学省の「GIGAスクール構想」に向けたICT環境整備の現状と今後の展望を調査した。国公立小中学校では2025年ごろに「児童生徒用の端末更新」や「次世代校務支援システムの導入本格化」などICT環境の大型更新(いわゆるNext GIGA)を迎える。教育現場や自治体の更新への意向を分析するため、全国すべての自治体(市区町村教育委員会)へ電話ヒアリング調査を実施した(全国1,741自治体のうち、1,246自治体が回答、詳細は調査概要を参照)。

 児童生徒の端末更新に「政府予算を想定」する自治体が9割以上

調査では、児童生徒用端末の更新の財源として、94%の自治体が政府のGIGAスクール関連予算を想定していた(データ1)。このうち約3割の自治体は独自予算を組むことも想定しているが、政府予算を前提とし、追加で必要になる部分に独自予算を充てていく考えである。

保護者負担を検討している自治体は2%にとどまった。家庭負担には目的や意義の説明、経済格差への配慮などの必要もあり、現環境でICT活用に注力する教育委員会は、整備の前提が大きく変わることは選択肢としにくいものと想定される。

【データ1】児童生徒の端末更新時に想定している予算 ~政府GIGAスクール予算~(自治体数=1,226)

個人所有の端末利用を視野に入れる自治体は約1割に留まる

仮に政府のGIGAスクール端末予算がない場合、独自予算だけでは調達できない自治体も出てくると想定される。保護者負担も取り入れながら端末整備をする場合を想定し、次回更新で最も家庭負担の少ない個人所有の端末利用(BYOD※1)で運用できるかを尋ねた。BYODで「全く問題なく運用できる」との回答は1%にとどまり、「多少問題は出るが運用できる」まで合わせても1割ほどだった(データ2)。アプリの動作環境、トラブル対応に加え、ゼロトラストセキュリティ対策など運用にあたってのハードルがいくつもあるためとみられる。

8割以上の自治体では、教育委員会で端末やOSを指定するなど、何らかの形で端末を統一し、運用していくことを想定している。この場合、家庭にある既存端末は利用せず、入学時などに新たに購入してもらう想定となる。運用のハードルは下がるが、前述の通り、購入の目的・意義や購入方法などの説明、家庭の経済状況への配慮などがハードルとなるだろう。

※1 Bring Your Own Deviceの略。個人が所有する端末(パソコン、タブレット、スマートフォン)を職場や学校に持ち込んで利用すること

【データ2】個人所有端末の運用に関する教育委員会の意向(自治体数=1,202)

次世代校務支援システムでは「クラウドを利用する」が約8割

文部科学省は、教員の職員室など場所によらない校務、人事異動の際の負担などを軽減することを目的として、2025年から「次世代校務支援システム」の導入を本格化させる。実現にあたっては、コスト削減や調達・運用負担の軽減を狙った校務支援システムのクラウド化、利便性向上を狙い校務系と学習系の回線統合を進める。将来的にはデータ連携・活用を進め、校務の高度化も目指す(※2)。

こうした動きに対し、次世代校務支援システムのインフラについて方針を決めている自治体は約4割だった。2023年度から政府の実証が始まり、詳細な仕様はこれからのため、決めかねている自治体も多いようだ。

方針を決めた自治体では「クラウドを利用する」が78%と多数を占めた。内訳はSaaS型の利用が42%と高く、次いでPaaS型/IaaS型が36%となった。特にSaaS型はイニシャルコストや運用負荷を下げやすいことが主な理由と考えられる。一方で、オンプレミス型を堅持する自治体も22%あった(データ3)

※2 GIGAスクール構想の下での校務の情報化に関する専門家会議による最終とりまとめ資料(2023年5月)

【データ3】次世代校務支援システムにおけるICTインフラの選定方針(自治体数=466)

 

政府方針に沿って、基盤はクラウド活用を推進する流れだが、ネットワークでは課題も出ている。例えば、回線については校務系と学習系(インターネット系)を統合するとの回答は約1割にとどまり、接続は2層ないし3層に分離したままの自治体が大半だった。「教育委員会独自のセキュリティポリシーを策定していない(全体の約4割)」や、「LGWAN経由で校務支援システムを利用している(全体の約1割)」といった自治体は、行政側(総務省管轄)のポリシーやネットワーク構成に従った運用との調整が必要となり、一足飛びに文部科学省方針には沿えない。クラウド基盤を活用するという方針に沿ってネットワーク構成を最適化できないことで、システム全体のコストアップや複雑な運用、利便性の低下を強いられるリスクもあると考えられる。

その兆候は調査からもうかがえた。今回の調査では、教員が持つ校務用端末と学習指導用端末を1台化する自治体は25%にとどまった。このまま進むのであれば、多くの自治体では校務支援システムがクラウド化しても、教員には教室に端末を2台持って行く、学習用端末の情報を校務用端末に手作業で転記するといった負担が想定される。

生徒数が少ない一部地域の教育委員会で生成AIの活用を推奨するケースもあった

文部科学省は7月に入り、生成AI(人工知能)の活用に関するガイドラインを発表した。AI技術の活用を禁じるものではなく、慎重に利用の道を探っていく方針が示されたとMM総研はみている。文部科学省のガイドライン発表前に実施した今回の調査のなかで、教育委員会に「生成AI(ChatGPTなど汎用AI)の利用について、推奨や制限などの指針を持っていますか」と尋ねている。回答を得た1185自治体のうち、児童生徒の活用を推奨する方針の教育委員会は5団体(1%以下)にとどまり、96%に相当する1132自治体は、推奨も制限もしていないと回答した。このことから政府が例示を交えながら活用や制限の方向性を示したことは、評価できる。

活用を推奨する方針と回答した5団体のうち4団体が人口5万人未満の自治体で、3団体は小中学校の児童生徒数が1000人未満、市町村区分でも町や村だった。最も規模の大きい自治体でも児童生徒数は1万人を超えない。この5団体は、プログラミングや英語教育などのデジタル活用、もしくは自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)など、イノベーションにデジタルを活用している。MM総研の中村成希取締役研究部長は「デジタル新技術を活用する場合、必ずしも組織の規模や地域差は関係なく、人材確保や技術サポートがあれば小規模組織の方が俊敏に対応できる可能性を示している」とコメントしている。

 

レポート発刊のお知らせ
本調査結果を掲載したレポートを発刊いたします。詳細については担当(高橋)までお問合せください。

■調査概要
1.調査対象:全国自治体1,741の教育委員会(1,738委員会)
2.回答件数:1,246件 ※一部回答含む
3.調査方法:電話による聞き取り、一部e-mailやFAXによる調査票の送付・回収を併用
4.調査時期:2023年5月

■報道に際しての注意事項
1. 本プレスリリースは、MM総研が実施した市場調査の結果と分析について、報道機関限定で詳細データを提供するものです。
2. 出典を「MM総研」と明記して下さい(MMは全角)。
3. 数値などは表ではなくグラフ化して掲載して下さい。
4. MM総研の独自調査結果であり、公的機関の統計や企業の公表数値などと異なることがあります。また、作成時点におけるものであり、今後予告なしに変更されることがあります。
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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀以上にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

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