個人事業主のクラウド会計利用率は初の30%超えに、引き続き拡大基調
「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2023年3月末)」
2023年04月25日
■クラウド会計ソフトの利用率は0%、前年比1.2ポイント増と引き続き拡大基調
■行政手続きのデジタル化がクラウド利用を後押し
■クラウド会計ソフトの事業者別シェアは弥生が52.8%、freeeが26.0%
ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は個人事業主を対象にWebアンケート調査を実施し、2023年3月末時点のクラウド会計ソフトの利用状況をまとめた。本調査では2022年(令和4年)分の確定申告を実施した個人事業主(26,043事業者)を対象とした。調査結果によると会計ソフトを利用している個人事業主は38.0%となった。そのうち、インターネット経由で会計ソフトの機能を利用するクラウド会計ソフト※1の利用率は31.0%で、前回調査(2022年4月)の29.8%から1.2ポイント増加。順調に拡大し初の30%超えに到達した(データ1・2・3)。
クラウド会計ソフト市場は、その利便性の高さが広く認知され始め、市場の裾野を着実に広げている。市場拡大を後押しするのが政府による行政手続きのデジタル化だ。特に、2021年の確定申告から青色申告特別控除が65万円から55万円に減額されたが、インターネットで電子申告するなら65万円の控除が適用される制度が継続。会計ソフト事業者もこの電子申告のメリットと確定申告書作成の簡単さを積極的に訴求し、クラウド会計ソフトの拡販とサポートの強化に取り組んだ。今後も10月のインボイス制度の開始を含め、行政手続きのデジタル化が進む見通しであり、クラウド会計ソフト市場の拡大に大きな追い風となるだろう。
クラウド会計ソフトの事業者別シェアでは大手3社による寡占状況が続いている。弥生(東京都千代田区)が52.8%、次いでfreee(フリー)が26.0%、マネーフォワードが15.3%で、上位3社で94.2%を占めた(データ4)。
【データ1】会計ソフトの利用率と利用形態
※1. クラウド会計ソフトとは、インターネット経由で会計ソフトの機能を利用できるソフトのこと。
パソコンに会計ソフトをインストールしたもの、会計データのみをインターネット上に保管するソフトは含まない。
クラウド利用率は31.0%に拡大、前年比1.2ポイント増と引き続き拡大基調
多くの個人事業主は1~12月の1年間の「所得」を確定させ、翌年2月から3月にかけて税務署に「申告」する、いわゆる「確定申告」を行っている。新型コロナウイルスの影響により、2022年までの3年間は申告期限日が例年の1ヵ月遅れの4月15日に実質延長されていたが、2023年は3月15日に戻った。そのため第11回目となる今回の調査(2023年3月調査)では、2023年2月から3月にかけて確定申告を実施した個人事業主 (26,043事業者)を対象とした。調査時期は期限日直後の3月16~20日とした。
上記に該当する個人事業主を対象にWebアンケート調査を実施したところ、「会計ソフトを利用している」との回答は38.0%(9,906事業者)となった(データ1)。この会計ソフト利用者に、利用している会計ソフトを確認したところ、パソコンにインストールして利用するPCインストール型の会計ソフト(※会計データのみをクラウド上で保管するものを含む)が55.0%を占めた。クラウド会計ソフトを利用している個人事業主は31.0%で、2022年の29.8%から1.2ポイントの増加となった(データ2)。電子申告なら65万円控除から減額されない条件に変更となった2021年の5.0ポイント増、2022年の3.5ポイント増という伸びに比べると需要を先食いした面もあり、徐々に鈍化したものの、クラウド利用率は引き続き拡大基調にある(データ3)。
【データ2】会計ソフトの利用形態
【データ3】会計ソフトに占めるクラウド会計ソフトの利用率の推移
一方、「会計ソフトを利用していない」と回答した個人事業主は 52.6%(13,703 事業者)となった(データ 1)。
この非利用者に会計ソフトの代わりに利用しているものを確認したところ、「市販の帳簿やノートなどへの手書き」が39.8%、「エクセルなどの表計算ソフトに入力」が35.6%で多く、次いで「税理士や会計事務所への外部委託」が20.4%となった。
弥生がトップシェアで52.8%、freeeが26.0%で2位
クラウド会計ソフトを利用している個人事業主に、実際に利用しているクラウド会計ソフトを回答してもらったところ、事業者別では弥生が52.8%で最も多く、次いでfreeeが26.0%、マネーフォワードが15.3%の順となった(データ4)。
【データ4】クラウド会計ソフトの事業者別シェアの推移
※対象ソフト
・弥生 ・・・「やよいの青色申告 オンライン」「やよいの白色申告 オンライン」
・freee ・・・「freee会計(確定申告)」
・マネーフォワード・・・「マネーフォワード クラウド確定申告」
※上記シェアは小数点第2位を四捨五入しているため、100%にならない場合がある
トップの弥生のシェアは52.8%で、前年に比べ1.1ポイント低下した。調査開始以来、首位を維持しており、個人事業主から安定した評価を得ている。2位のfreeeは26.0%で、0.6ポイント上昇。3位のマネーフォワードは15.3%で、0.2ポイント低下した。上昇したのはfreeeのみだが、3社ともシェアの変動幅が小さかった。
2023年3月調査の上位3社の合計シェアは94.2%に達した。個人事業主におけるクラウド会計ソフト市場で半数以上のシェアを持つ最大手の弥生と、ベンチャー系のfreee、マネーフォワードが市場をけん引しており、上位3社による寡占状態が続いている。
行政手続きのデジタル化がクラウド利用のメリット拡大を後押し
会計ソフト利用者に占めるクラウド利用率は年々上昇し、今回調査では31.0%にまで拡大した。ここ数年でクラウド会計ソフト市場は、その利便性の高さが広く認知され始め、市場の裾野を着実に広げている。この市場拡大を後押ししているのが政府による行政手続きのデジタル化だ。政府は2019年に成立した「デジタル手続法」に基づき、2024年度中に行政手続きの9割を電子化する方針を掲げ、様々な施策を打ち出している。税務面では青色申告特別控除の制度変更もその一環となっている。青色申告特別控除の金額は2021年の確定申告から、従来の紙をベースとした申告では65万円から55万円に減額されたが、インターネット経由で確定申告書を提出する(e-Tax利用)か、もしくは電子帳簿保存に対応したソフトを導入すれば65万円控除の優遇措置を引き続き受けられることとなった。この税制改正は個人事業主に対し、デジタル化のメリットをより明確にしたといえる。会計ソフト事業者もこの点を積極的に訴求し、電子申告に対応したクラウド会計ソフトの拡販を強化した。こうした一連の動きがクラウド利用率の拡大につながったと見られる。
また、10月のインボイス制度開始も追い風になる。大手取引先などから電子化されたインボイスでの交付を希望された場合、個人事業主側もその形式での発行・保存を検討することになるため、個人事業主側の日々の請求業務の電子化が進み(少なくとも手書きでは対応しきれなくなる)、ひいては会計業務や確定申告の電子化も進む。
10月の制度開始に向け、その直前には大手取引先のみならず中堅中小企業も駆け込みで導入が進むと見られ、クラウド会計を含む会計ソフト利用の追い風になるだろう。
ただ、クラウド会計ソフトを提供する大手事業者はすでに追加機能で対応しているため、シェア変動や乗り換えにはあまり影響しないと見られる。
こうした行政手続きのデジタル化やインボイス制度などの法制度変更は、すべての個人事業主にとって対応を迫られる大きなテーマとなっている。今回の調査結果でも、会計ソフトそのものを利用していない層が全体の52.6%と半数を超えているが、毎年少しずつ比率が減少しており、2024年には半分を切る見通し。会計ソフト事業者もこの流れを加速するべく、期間限定の無料キャンペーンなどを通じ、会計ソフト利用のハードルを下げる取り組みを継続的に行っている。行政手続きのデジタル化が進む中、公的支援制度の活用に関する情報や法制度の変更に関する最新情報の提供、機能追加などを実施して個人事業主に会計ソフトの利便性やメリットの高さを訴求している。こうした取り組みの積み重ねが今後も新規顧客の開拓につながっていくだろう。
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