ICTを活用した授業スタイル変革に温度差

「小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用動向調査」(2022年12月時点)

2023年01月23日

■ 9割以上の自治体がGIGAスクール端末について十分な性能を「備えている」と評価
■ 授業で端末を毎日利用する自治体は75%(2021年10月調査比49ポイント増)
■ 教員と児童生徒のコラボレーション機能の活用が44%(同31ポイント増)
■ 課題は自治体・教員ともに「教員のICTスキル」と認識も、対策への評価は分かれる

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称 MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、GIGAスクール構想実現に向けたICT環境(GIGAスクール環境)(※1)の利用状況を調査した。全国1,741の全ての自治体(対象は教育委員会)に電話アンケートを実施し、1,144団体から回答を得た。これに加え国公立小中学校の教員に対するWebアンケート(回答数1,200)も実施し、多角的にGIGAスクール環境の現状を分析した。

調査結果から、この1年あまりで1人1台端末の利用頻度は大幅に増え、用途の幅も広がっていることがわかった。一方、利用拡大における一番の課題は教員のICTスキルであった。教員のICTスキル向上のため、現場に即した仕組みづくりが必要であると示唆された。

GIGAスクール端末の性能の高さを9割以上の自治体が評価

GIGA スクール構想実現の基盤となる児童生徒用の端末については、十分な性能を「備えている」と回答した自治体は9 割を超えた(データ 1)。学校で利用する端末としては、文部科学省の示した標準仕様が概ね妥当であったとみられる。なお、備えていないと回答した8%の自治体は、端末そのものだけでなく、ペンや画面などのUI、インターネット接続性など、周辺機器や利用体験全般に対する課題を指摘している。

※1 GIGAスクール環境とは児童生徒の主体的・創造的な学び実現を支えるデジタル基盤であり、教室内外の高速インターネット接続、クラウド活用、1人1台端末が柱となる。

 

【データ1】児童生徒用端末はGIGAスクール構想実現に十分な性能を満たしているか(自治体数=1,135)


授業で毎日利用する自治体は7割と大幅に増加

GIGAスクール環境の利用も着実に広がっている。授業における1人1台端末の利用頻度について2021年10月調査(※2)と比較したところ、「毎日利用している」自治体は2021年10月時点では26%であったが、2022年12月時点では75%に拡大。この1年2ヵ月の間に49ポイントも増加している。把握できていない、利用していないなど端末利用に消極的な自治体はほとんどなくなった(データ2)

※2 MM総研「小中学校のGIGAスクール端末の利活用動向調査」(2021年10月時点))

【データ2】授業における1人1台端末の利用頻度比較(自治体数による比較)

 

教員と児童生徒のコラボレーション機能の活用が44%(前回調査比31ポイント増)

GIGAスクール端末の利用用途について自治体に聞くと、2021年10月時点(※2)では1自治体あたり利用用途の数としては平均1.7であったが、今回調査では3.8に増えており、端末利用の幅も広がっていることがわかる(データ3)

具体的な利用用途を見ると「学習支援ソフトやアプリの利用」、「調べ学習」、「考えをまとめて発表」が前回調査から引き続き上位を占めた。加えて、「教員と児童生徒のやりとり」「児童生徒同士のやりとり」といったコラボレーション機能を利用する自治体も増えている(※3)。特に教員と児童生徒のやりとりは、44%と前回調査から31ポイント増えている。

※3  約8割の自治体でGoogle Workspace for EducationやMicrosoft 365 Educationなどのクラウドサービスを教育情報基盤として端末とともに利用している(GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」(2022年5月時点))

【データ3】GIGAスクール端末の平均用途数(左)と用途別の利用頻度(右)

GIGAスクール環境を使いこなすほどコラボレーション機能を利用する

自治体と同様に、小中学校の教員にも端末の利用用途について聞いている。授業における端末の利用度合いと組み合わせて分析すると、端末を利用できている教員ほどコラボレーション機能(※4)の利用割合が高い結果となった。特に「ほとんど利用できていない教員」と「十分に利用できている教員」では利用率に2倍以上の開きがある(データ4)。端末の利用用途に関する結果(データ3と4)を踏まえると、GIGAスクール環境は児童生徒同士が学びを深めるための必要不可欠な基盤になっているといえるだろう。

※4 コラボレーション機能とは教員と児童生徒、あるいは児童生徒同士が双方向のコミュニケーションを取りながら進める授業を支援する機能

【データ4】授業における端末利用度合いとコラボレーション機能の利用割合の関係

課題は「教員のICTスキル」向上、その対策への評価は自治体と教員で意見が分かれる

GIGAスクール環境の課題について、自治体(教育委員会)側と教員側のそれぞれの認識を調査した。最大の課題は「教員のICTスキル」で、両者の見解は一致した(データ5)。2位以降の順位は一致せず、自治体と教員との間に認識の違いが生じている。

【データ5】GIGAスクール環境の利用拡大に対する主な課題

これらの課題に対し、対応策を打てているかを確認した。最大の課題である「教員のICTスキル」については、自治体は95%が「対応策をとれている」と回答したのに対し、教員は40%に留まった。つまり、現状の教員ICTスキルアップ施策がうまく機能していないと考えられる(データ6)

【データ6】「教員のICTスキル」の向上に向けた対応策の有無

教員のICTスキルアップ施策について、「対応策が取れている」と回答した教員274人に、その内容を聞くと、「研修の実施」との回答が68%を占めた。特に「校内研修がある」との回答が多かったほか、「勤務時間内に短い研修を行う」「研修機会を増やす」といった声もあった。単発の研修ではなく、定期研修など学校の中で参加しやすい環境づくりが必要と考えられる。

このほかにも、「教員間で学び合う、困ったら教え合う」「タブレット主任を設ける」「ICT支援員をスキルアップに活用する」といった回答や、「リモート会議で使う」「他校の授業を見に行っている」「授業で使うよう、積極的な呼び掛け」といった教員自らが積極的に使うきっかけを用意しているとの回答がみられた。

===調査結果を受けたアナリスト見解===
GIGAスクール構想の現状について、取締役研究部長の中村成希は「当初5年の整備計画を新型コロナウイルスの流行を受けて大幅に短縮し、約1年で端末とインターネットの配備を進めた。配備完了から約2 年が経過し、端末を毎日利用する自治体が 7 割を超え、利用用途も徐々に高度化している。デジタルならではの学びを実現する基盤確立に向け前進しているといえよう」と総括する。

多くの教員が自らのICT活用スキルを課題としている点について、中村は「スキル向上の目的が、既存の手法とICTを組み合わせて個別最適・協働的な授業スタイルを確立することにあるのであれば、教員はICTツールを効果的に使う方法を習熟する必要がある。継続的に教員のスキルアップ環境を整備することも必要だろう。政府は、個別施策だけでなく、学校自らがICTを活用し授業スタイルのアップデートができる“デジタル変革組織”に生まれ変われるように支援策を検討していくことが重要となろう」とコメントしている。
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以上

 

■調査概要
①教育委員会調査
1.調査対象:全国自治体1,741の教育委員会(1,740委員会)
2.回答件数:1,144件
3.調査方法:電話による聞き取り、一部e-mailやFAXによる調査票の送付・回収を併用
4.調査時期:2022年12月 

②教員調査
1.調査対象:国公立小中学校に勤務する教員
2.回答件数:1,200件
3.調査方法:WEBアンケート
4.調査時期:2022年12月
 ※本リリースのデータ1~3は「①教育委員会調査」、データ4は「②教員調査」、データ5~6は①と②を組み合わせて分析した結果である

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 担当:中村成希、高橋樹生
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株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀近くにわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

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