教員向けの端末配備で格差広がる

「GIGAスクール構想実現に向けたICT環境整備調査」(2022年5月時点)

2022年06月23日

■ 授業用端末を教員に1人1台配備する自治体は37%に留まり補助金利用も停滞

■ GIGAスクール環境に適応する情報セキュリティポリシーに改訂した自治体は43%と、

  2021年7月調査から5ポイントの伸びに留まる

■ メールやチャットなどの機能を制限する自治体が8割にのぼる

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称 MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、全国すべての自治体への電話ヒアリングなどを通じ、GIGAスクール構想実現に向けたICT環境(GIGAスクール環境)(※1)の整備状況を調査した。全国1,741自治体の内、1,425自治体から回答を得た(一部回答含む)。

調査から、教員の授業用端末整備の遅れ、GIGAスクール環境に適応する情報セキュリティポリシーの未整備という課題が明らかとなった。GIGAスクール構想の実現に向け、多くの自治体は教員に対しても授業用端末を新たに用意している(※2)。しかし、GIGAスクール環境に適応した授業用端末を教員1人1台分配備できている自治体は37%に留まっていることが明らかとなった(データ1)。GIGAスクール構想より前に配備された古い授業用端末を含めても、1人1台化できている自治体は54%と半数程度にとどまる。

文部科学省は生徒用端末1人1台分の予算措置をしたが、教員の授業用端末配備に予算をつけなかったことで、指導用端末の不足や生徒用と異なる端末環境を背景に、授業の運営に支障をきたすなどの課題が残った。このため2021年度補正予算(2021年12月20日成立)で教室環境の改善を目的とした予算を84億円計上し、教員の授業用端末購入にも充てられるようにした。しかし配備率は伸び悩んでおり、補正予算成立後である「2022年以降に授業用端末を調達した」との回答は25自治体に留まっている。

※1 GIGAスクール環境とは生徒の主体的・創造的な学び実現を支えるデジタル基盤であり、教室内外の高速インターネット接続、クラウド活用、端末1人1台環境が柱となる。

※2 該当設問に回答した1,400自治体のうち、約7割がGIGAスクール構想開始後に「調達」もしくは「生徒用予備機を活用」している。

 

【データ1】GIGAスクール端末の教員1人1台化状況(自治体数 n=1,400)

※生徒用端末の予備機とGIGAスクールを受け調達した教員の授業用端末の台数を集計し、各自治体の教員数と比較した。

GIGAスクール環境に適合した自治体の情報セキュリティポリシー改訂に遅れ

GIGAスクール環境整備にあたり、学校のセキュリティ対策も見直す必要がある。文部科学省は2021年5月、1人1台端末やクラウドの利用を前提としたセキュリティ対策がとれるよう「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を変更した(※3)。この変更により、所属する自治体・組織内でデータを共有するために、クラウドへデータをアップロードすることなどが認められた。

 文部科学省のガイドライン変更を受け、自治体はそれぞれ定める情報セキュリティポリシーを改訂する必要がある。すでに改訂している自治体は43%であり、前回調査(2021年7月)から5ポイント増えた。残りの約6割は、制度の面でGIGAスクール環境への対応が完了していない可能性が高い(データ2)

 

【データ2】文部科学省のガイドライン変更を受けた自治体情報セキュリティポリシー改訂状況の変化

※3 文部科学省が整備している「教育情報セキュリティポリシーガイドライン」の第2回改訂(2021年5月)を受けて、自治体の情報セキュリティポリシーを改訂しているかを尋ねた。第2回改訂では、GIGAスクール構想で配備した生徒の1人1台端末を活用するため、クラウド利用を前提としたネットワーク構成やセキュリティ対策を示している。2022年3月に再度改訂されたが、2021年5月改訂の基本方針を引き継いでいる。ガイドライン自体は各教育委員会や学校が情報セキュリティポリシーの策定や見直しを行う際の参考となるよう、2017年10月に文部科学省が策定した指針。

 8割の自治体がメールやチャットなどの機能制限を実施

約8割の自治体がGoogle Workspace for EducationやMicrosoft 365 Educationなどのクラウドサービスを教育情報基盤として端末とともに利用しているが、このうちメール、チャット、ストレージなど主要な標準機能を制限なく利用できる自治体は2割に留まる。残る約8割の自治体はメールやチャットといったコミュニケーションツールを中心に機能制限をかけている(データ3)。適切な情報漏えい対策を用意できない、ツールを子供たちに利用させる際の適切な運用制限ができない、ルール作りが進まないことなどが背景にあるとみられるが、文部科学省が公表したガイドライン(※4)にもある通り、クラウド活用を前提としたルール作りと運用の転換が求められる。

子供たちの情報リテラシー向上には、一方的な利用制限ではなく、体験しながらクラウドやインターネット活用のルールを子供たちが自主的に考える機会を作る必要がある。発達段階や活用状況に応じて柔軟に見直しながら体得することも有効と考えられる。

ガイドラインでは、運用面でもクラウドを活用して端末を管理する仕組みであるMDM (Mobile Device Management)の導入などが前提とされている。MDMは、セキュリティの確保された環境で端末を利活用するには不可欠である。特にクラウド型のMDMであればハードウェア運用やバージョン管理といった負担が少ない。人材が限られるなかでGIGAスクールを実現していくには、こうした技術を採用し、効率的に運用することも必要となろう。

※4 文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(令和4年3月)」

 

【データ3】クラウドの機能制限有無(自治体数 n=1,097)

■調査概要

1.調査対象:全国自治体1,741の教育委員会(1,740委員会)

2.回答件数:1,425件

3.調査方法:電話による聞き取り、一部e-mailやFAXによる調査票の送付・回収を併用

4.調査時期:2022年4月1日~2022年5月27日

5.ICT環境:以下に示す端末やクラウド、それらを活用するための制度やサポートサービスを指す

     ①端末(生徒用端末、PC教室・特別教室の端末、大型提示装置、教員の授業用端末、校務用端末)

     ②クラウド(教育向けのGoogle Workspace及びMicrosoft365)

     ③端末とクラウドを活用するための制度・規制の整備やサポートサービスの利用

 

レポート発刊のお知らせ

 本調査結果を掲載したレポートを発刊いたします。詳細については担当(高橋)までお問合せください。

 

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