業務効率化や住民サービス向けのDX投資が拡大

「自治体ICT投資動向調査」(2022年3月)

2022年06月15日

■ 自治体のICT投資額は2025年度で5684億円と予測

■ ICT投資額のうち、DX関連投資の占める比率は2025年度で52%と過半を占める見込み

■ ガバメントクラウドは地方圏の小規模自治体から先行活用が進むと予測

ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称 MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、電話ヒアリングを通じ、自治体のICT投資動向を調査した。自治体を人口規模別に3つのセグメントに分類し、356の自治体から回答を得た。調査を通じて、自治体のICT投資額(※1)や、その内訳としてDX(デジタルトランスフォーメーション)投資額を推計。また、ガバメントクラウドに対する現状認識も明らかにした。

調査では2021年度のICT投資額、2022年度のICT予算額、2023年度以降のICT予算方針について尋ねた。このヒアリング結果と回答自治体の人口から、自治体規模に応じて住民1人当たりのICT投資額を算出し、全国の自治体による投資総額を推計した。分析の結果、2021年度の投資総額は5141億円であり、2025年度に5684億円まで成長する見込みだ(年平均成長率2.5%)(データ1)

総務省が2017年度まで実施していた「市区町村における情報システム経費の調査」によれば、自治体のICT投資総額は年々減少傾向にあり、2017年度時点で4786億円であった。本推計結果と単純比較はできないが、総務省が推進してきた自治体DXや新型コロナ対策などで拡大基調に転じたようだ。岸田政権も2021年度補正予算に、地方のデジタル化推進を目的に「デジタル田園都市国家構想推進交付金」として200億円を盛り込んだ(※2)。一部を政府が補助する形のため、自治体の支出を合わせるとICT投資額を300億円程度押し上げるとみられる。

【データ1】自治体におけるICT投資総額の推移(億円)

※1 ICT投資額は、ハードウェア、ソフトウェア、ICTサービス、その他経費(通信費、消耗品費用、調査研究費など)を指す。

※2 自治体が申請する事業により、補助率は1/2~3/4で変動する。2022年3月18日時点で、504自治体が採択され、国費152億円(事業費総額292億円)の支出が決まった。新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を充てることも可能。

DX投資が2025年度まで年平率6.7%で成長

投資分野の内訳についても徐々に変化していくとみられる。調査結果をもとに推計すると、既存システムの維持などに向けられていた投資は、2025年度まで年平均マイナス1.2%で減少する。一方、DX投資(下記①~③の総額)は、年平均6.7%で成長する見込みだ(データ2)。従来システムへの投資削減分や、コロナ禍で政府から複数発出された補助金や交付金がこの3領域に充てられているようだ。2021年度実績ベースでは、ICT投資に占めるDX投資比率は44%であったが、2025年度には52%と過半を占め、従来型投資を上回る見込みだ。

【DX投資の3領域】

 ①コラボレーションデジタル:デジタル技術を駆使しながら、産官学連携を進めることで新たな事業モデルを創出すること。

②ワークロードデジタル:デジタルを活用して新たな住民サービスの創出や業務効率化などを実現すること。電子申請、LINE、RPAなどの活用もここに入る。

③モダナイゼーション:既存システムをクラウドにリフトもしくはシフトするなどデジタル技術を活用可能な状態にすること。自治体クラウド、今後導入が進むガバメントクラウドも該当する。

 

【データ2】自治体ICT投資の成長領域

 

ガバメントクラウドへの移行は2024年度以降に先送り

自治体がデジタル活用やDXを進める上で重要となるのが、政府が整備する共通システム基盤「ガバメントクラウド」である。自治体は個別に運用してきた業務システムを、2025年度末までにデジタル庁が主導する標準準拠システムに移行する。この基盤にガバメントクラウド(※3)が用いられる。

自治体にガバメントクラウドの検討状況を聞くと、84%が「利用を検討している」とした。利用検討している自治体のうち、移行業務の調達公示時期を尋ねると、2024年度以降が55%と半数以上を占めた。また、「未定」も36%となっている(データ3)

 【データ3】ガバメントクラウドの利用検討状況について

 

移行が先送りや時期未定となる背景には、システムの詳細な仕様がわからないという点が挙げられる。ガバメントクラウドの整備や標準準拠システムの仕様策定はデジタル庁が中心に進め、2022年夏をめどに公開される予定だ。実現可能性を検証する先行事業(※4)も進めているが、実際にテスト運用を行う自治体の採択は当初予定より約2ヵ月遅れの2021年10月となった。こうした状況を考えると、ガバメントクラウドへの移行は2024年度や最終年度の2025年度に集中する可能性がある。支援するITベンダーのリソースも不足し、スケジュール遅延や人件費高騰の懸念も出てくるだろう。

※3 複数のクラウドで構成される。2021年10月にAmazon Web ServicesとGoogle Cloud Platformの外資2社が採用された。2022年5月末時点でメガクラウドの一角である「Microsoft Azure」や国内ベンダーは採用されていない。

※4 先行事業には52自治体が応募した。そのうち、神戸市、倉敷市、盛岡市、佐倉市、宇和島市、須坂市、美里町、笠置町の8自治体を採択している(2021年10月)。テスト環境で基幹業務などのシステムを稼働させ、クラウド環境や回線などが問題なく利用できるか、移行方法、投資対効果を検証する。その後2022年度内に順次本番環境に移行を進める想定である。

 ガバメントクラウドは地方圏の小規模自治体で先行活用される可能性がある

ガバメントクラウドを利用検討している自治体のうち、「全ての業務システムをガバメントクラウドへ移行する」は53%であり、人口の少ない自治体ほどその比率は高い。人口5万人から20万人未満では53%、人口5万人未満では、57%となっている(データ4)

 この調査結果から、カバメントクラウドは、大都市圏の自治体からではなく、地方圏の人口規模が小さい自治体から先行活用される可能性がある。小規模自治体ほど予算や人材の問題もあり、業務システムをあまりカスタマイズせずパッケージ製品を中心に利用しているほか、自治体クラウドなど共同利用型でシステム利用することも多い。そのため、比較的ガバメントクラウドにも移行しやすいとみられる。

 【データ4】ガバメントクラウドの利用範囲について(※ガバメントクラウドの利用を検討としている自治体を対象に集計)

 

■調査概要

調査時点:2022年3月

 調査手法:電話アンケート

 調査対象:都道府県市区町村自治体1788団体のうち、以下3セグメントに分けて調査対象を設定した。

①人口5万人以上の557団体(うち、225団体から回答回収。一部回答含む)

②人口2万人以上5万人未満の100団体をランダムサンプリング(同68団体)

③人口2万人未満の100団体をランダムサンプリング(同63団体)

 

レポート発刊のお知らせ

 本調査結果を掲載したレポートを発刊いたします。詳細については担当(高橋)までお問合せください。

 

■報道に際しての注意事項

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■MM総研について

株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀近くにわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

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