個人事業主のクラウド会計利用率は30%に届く勢い、引き続き拡大基調
「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2022年4月末)」
2022年05月25日
■クラウド会計ソフトの利用率は29.8%、前年比3.5ポイント増と引き続き拡大基調
■行政手続きのデジタル化がクラウド利用のメリット拡大を後押し
■クラウド会計ソフトの事業者別シェアでは弥生が53.9%、freeeが25.4%
ICT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都・港区、所長 関口 和一)は個人事業主を対象にWebアンケート調査を実施し、2022年4月末時点のクラウド会計ソフトの利用状況をまとめた。本調査では2021年(令和3年)分の確定申告を実施した個人事業主(22,112事業者)を対象とした。調査結果によると会計ソフトを利用している個人事業主は36.5%となった。その内、インターネット経由で会計ソフトの機能を利用するクラウド会計ソフト※1の利用率は29.8%で、前回調査(2021年4月)の26.3%から3.5ポイント増加した(データ1・2)。クラウド会計利用率は引き続き拡大基調にあり、間もなく30%に届く勢いとなった(データ3)。
クラウド会計ソフト市場は、その利便性の高さが広く認知され始め、市場の裾野を着実に広げているが、この市場拡大を後押しするのが政府による行政手続きのデジタル化だ。特に、前回の確定申告から青色申告特別控除が65万円から55万円に減額されたが、インターネットで電子申告するなら65万円の控除が適用される制度が継続。会計ソフト事業者もこの電子申告のメリットを積極的に訴求し、クラウド会計ソフトの拡販とサポートの強化に取り組んだ。今後も行政手続きのデジタル化が進み、個人事業主と会社員の両者にとってメリットが拡大する見通しであり、クラウド会計ソフト市場の拡大には大きな追い風となるだろう。
クラウド会計ソフトの事業者別シェアでは大手3社による寡占状況が続いている。「弥生」が53.9%、次いで「freee」が25.4%、「マネーフォワード」が15.5%で、上位3社で94.8%を占めた(データ4)。
【データ1】会計ソフトの利用率と利用形態
※1. クラウド会計ソフトとは、インターネット経由で会計ソフトの機能を利用できるソフトのこと。
パソコンに会計ソフトをインストールしたもの、会計データのみをインターネット上に保管するソフトは含まない。
クラウド利用率は29.8%に拡大、前年比3.5ポイント増と引き続き拡大基調
多くの個人事業主は1月~12月の1年間の「所得」を確定させ、翌年2月から3月にかけて税務署に「申告」する、いわゆる「確定申告」を行っている。新型コロナウイルスの影響により、今年も申告期限日は当初の3月15日から4月15日に実質延長された。そのため第10回目となる今回の調査(2022年4月調査)でも、2022年2月から4月にかけて確定申告を実施した個人事業主 (22,112事業者)を対象とした。調査時期も期限日直後の4月16日~25日とした。
上記に該当する個人事業主を対象にWebアンケート調査を実施したところ、「会計ソフトを利用している」との回答は36.5%(8,060事業者)となった(データ1)。この会計ソフト利用者に、利用している会計ソフトを確認したところ、パソコンにインストールして利用するPCインストール型の会計ソフト(※会計データのみをクラウド上で保管するものを含む)が58.0%を占めた。クラウド会計ソフトを利用している個人事業主は29.8%で、前年の26.3%から3.5ポイントの増加となった(データ2)。電子申告なら65万円控除から減額されない条件に変更となった前年の5.0ポイント増という伸びに比べるとやや鈍化したものの、例年通り3ポイント程度の拡大ペースを維持。クラウド利用率は引き続き拡大基調にある(データ3)。
【データ2】会計ソフトの利用形態
【データ3】会計ソフトに占めるクラウド会計ソフトの利用率の推移
一方、「会計ソフトを利用していない」と回答した個人事業主は55.6%(12,284事業者)となった(データ1)。この非利用者に会計ソフトの代わりに利用しているものを確認したところ、「市販の帳簿やノートなどへの手書き」が40.8%、「エクセルなどの表計算ソフトに入力」が36.3%で多く、次いで「税理士や会計事務所への外部委託」が19.0%となった。
「弥生」がトップシェアで53.9%、「freee」が25.4%で2位
クラウド会計ソフトを利用している個人事業主に、実際に利用しているクラウド会計ソフトを回答してもらったところ、事業者別では「弥生」が53.9%で最も多く、「freee」が25.4%、次いで「マネーフォワード」が15.5%となった(データ4)。
【データ4】クラウド会計ソフトの事業者別シェアの推移
※対象ソフト
・弥生 ・・・「やよいの青色申告 オンライン」、「やよいの白色申告 オンライン」
・freee ・・・「クラウド確定申告ソフト freee」
・マネーフォワード・・・「マネーフォワード クラウド確定申告」
※上記シェアは小数点第2位を四捨五入しているため、100%にならない場合がある。
【データ5】 クラウド会計ソフトの事業者シェアの推移(単一回答)
トップシェアの「弥生」は53.9%を獲得。前年に比べ実数ベースでは増加したもののシェアは3.1ポイント減少した。調査開始以来、首位を維持しており、個人事業主から安定した評価を獲得している。2位の「freee」は25.4%で、前年調査から4.8ポイント増加。前年は微減だったこともあり、今回は3社の中で上げ幅がもっとも大きかった。3位の「マネーフォワード」は15.5%で、前年比0.7ポイント増加。前年まで2年間はシェアが低下していたが、今回は僅かながら増加に転じた。
2022年4月調査の上位3社の合計シェアは94.8%に達した。個人事業主におけるクラウド会計ソフト市場で半数以上のシェアを持つ最大手の「弥生」と、ベンチャー系の「freee」、「マネーフォワード」が市場をけん引しており、上位3社による寡占状態が続いている。
行政手続きのデジタル化がクラウド利用のメリット拡大を後押し
会計ソフト利用者に占めるクラウド利用率は年々上昇し、今回調査では29.8%にまで拡大した。ここ数年でクラウド会計ソフト市場は、その利便性の高さが広く認知され始め、市場の裾野を着実に広げている。この市場拡大を後押しするのが政府による行政手続きのデジタル化だ。政府は2019年に成立した「デジタル手続法」に基づき、2024年度中に行政手続きの9割を電子化する方針を掲げ、様々な施策を打ち出している。税務面では青色申告特別控除の制度変更もその一環となっている。前回の確定申告から、従来の紙をベースとした申告では、青色申告特別控除の金額が65万円から55万円に減額されるが、インターネット経由で確定申告書を提出する(e-Tax利用)か、もしくは電子帳簿保存に対応したソフトを導入すれば65万円控除の優遇措置を受けられることとなった。この税制改正は個人事業主に対し、デジタル化のメリットをより明確にしたといえる。会計ソフト事業者もこの点を積極的に訴求し、電子申告に対応したクラウド会計ソフトの拡販を強化した。こうした一連の動きがクラウド利用率の拡大につながったと見られる。
行政手続きのデジタル化に加え、電子帳簿保存法の改正などの法制度変更は事業規模の大小にかかわらず、全ての個人事業主にとって対応を迫られるテーマとなっている。今回の調査結果でも、会計ソフトそのものを利用していない層が全体の55.6%と過半を占めたが、毎年少しずつ比率が減少しており、間もなく半分を切る。会計ソフト事業者もこの流れを加速するべく、期間限定の無料キャンペーンなどを通じ、会計ソフト利用の敷居を下げる取り組みを継続的に行っている。コロナ禍が続く中で公的支援制度の活用に関する情報や法制度の変更に関する最新情報の提供などを通じ個人事業主を積極的に支援するなかで会計ソフトの利便性の高さを訴求している。こうした取り組みの積み重ねが今後も新規顧客の開拓につながっていくだろう。
■調査概要
1. 調査対象:個人事業主/令和3年(2021年)分の確定申告実施者
2. 回答件数:22,112件
3. 調査方法:Webアンケート
4. 調査時期:2022年4月16日~25日
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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀近くにわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。
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