既築賃貸向けでマンションISP事業者の競争激化

「全戸一括型マンションISPシェア調査」(2020年3月末)

2020年08月26日

■ 2020年3月末の全戸一括型マンションISPの提供戸数は315.1万戸で前年比15.5%増
■ 事業者シェアでは、つなぐネットコミュニケーションズが3年連続で首位
■ 新築向け需要の減少で、既築賃貸向けが事業者間競争の主戦場となる
■ 各事業者は高速化や速度低下を防ぐ技術で通信品質の確保に注力

ⅠCT市場調査コンサルティングのMM総研(略称MMRI、東京都港区、関口和一所長)は、2020年3月末時点の全戸一括型マンションISP(インターネット接続事業者)のシェア調査結果を発表した。本調査は、集合住宅の全戸にインターネット接続サービス(光回線ベース)を一括で導入・提供する事業者を対象とし、任意加入方式は含まない。市場シェア(データ1)は2020年3月末時点のサービス提供戸数を対象とし、OEM提供分を除いている。

2020年3月末時点の全戸一括型マンションISPによるサービス提供戸数は315.1万戸で、前年比で15.5%の増加となった。2019年3月末の前年比21.0%増に比べ、やや鈍化した。要因は、①新築マンションの着工数が過剰供給への警戒から減少したこと、②既築物件へのインターネット導入が一部の大手事業者で停滞したため――とMM総研では分析している(データ2)。事業者別シェアでは、つなぐネットコミュニケーションズが22.7%を獲得し、3年連続で首位となった。2位は14.3%のファミリーネット・ジャパン、3位は11.2%のD.U-NETと続く。上位企業の顔ぶれは2019年3月末と変わりないが、ファイバーゲートが順位を上げ4位に浮上した。

【データ1】

【データ2】

◆事業者動向

シェア1位のアルテリアグループのつなぐネットコミュニケーションズが展開する「UCOM光 レジデンス」および「e-mansion」は、2020年3月末の提供戸数が71.6万戸(前年比6.9万戸増)となった。10Gbpsやオール光などの高速・高品質インターネット接続サービスの提供により、新築を中心に分譲や賃貸の中大型規模物件の獲得が進んだ。賃貸向けでは、管理会社との包括契約を主軸とする獲得戦略が奏功した。

2020年6月には新たに小規模の賃貸物件向けインターネット「UCOM光 レジデンス Five.A(ファイブ・エー)」の提供を開始。次世代ネットワーク方式「IPv6 IPoE」の採用により、小規模な賃貸物件においても分譲物件さながらの高い通信品質を確保。また、チャットボットによるコールセンターの自動化や小規模物件に合わせた通信機器の選定、オプションサービスの見直しなどにより低価格を実現している。

「CYBERHOME(サイバーホーム)」を提供するファミリーネット・ジャパンは、2020年3月末の提供戸数が45.0万戸(同4.3万戸増)でシェア2位となった。AI対話システムの「AI管理員/AIコンシェルジュ」や、スマートフォンやスマートスピーカーから住宅設備や家電を制御するIoTサービス「rimoco(リモコ)」の導入が分譲物件で進み、実績を伸ばした。そのほかエネルギーソリューションや玄関前配達サービス、保管付き宅配クリーニング等を含む豊富な付加価値サービスを提供している。今後は「AI管理員/AIコンシェルジュ」を主力事業の一つとして体制を整えていく。

「D.U-NET」を提供する大和ハウスグループのD.U-NETは、2020年3月末の提供戸数は35.3万戸(同4.6万戸増)となった。既築物件向けのインターネット訴求が一段落したことから、2019年3月末の前年比13万戸増から鈍化したものの、引き続きシェア3位となった。新型コロナウイルスを機に在宅勤務や遠隔授業、動画コンテンツ視聴等の利用が増えたことで、より安定したインターネット環境の重要性が認識されたことから、固定通信需要の高まりを受け復調するとみられる。今後は積極的に大和ハウスグループ内外の賃貸・分譲物件へアプローチする。

ファイバーゲートは2020年3月末の提供戸数が22.7万戸(同6.5万戸増)と、昨年に続き順位を上げ4位となった。賃貸向けにマンションWi-Fi入居者無料サービス「FGBB」を提供、2019年度は地方のインターネット一括需要の高まりを受けて販促を強化した。2019年3月末比で40%増と大きく伸び、シェア上位企業を猛追する。仙台を中心とする東北エリアへの進出を強化するほか、今秋にはホームIoT「FG Home IoT」の提供を開始する。機器開発から導入、サポートまでワンストップで提供できる点を強みに差別化を図る。

ギガプライズはOEM先からの受注で新築、既築物件共に大きく伸びた。本調査では同社の提供戸数に含まれないが、OEM提供分を含めると2020年3月末時点の提供戸数は56.5万戸(同13.9万戸増)と躍進。2019年度は、入居者との日程調整や工事調整などの同市場が長年抱える問題を払拭するサービス開発に注力した。今後はNECネッツエスアイ、Broadcomと共同開発した既存電話線を用いた集合住宅向けISPサービス「SPES(エスピーイーズ)」や、通信機器メーカーのディーリンクジャパンと開発した脱着式のWi-Fiアクセスポイント「PWINS(ピーウィンズ)」の導入を加速させる。

◆市場動向

今後の市場動向を予測すると、新築の賃貸・分譲市場共に全戸一括型のインターネット需要は徐々に減少していく見込みだ。過剰供給による空室率増加への警戒感は根強く、新規着工数の減少が続くことが予想されるためだ。

一方、既築の賃貸市場は全戸一括型のインターネットが未導入の物件が多く、入居率向上を目的としたオーナーや管理会社の導入意向は引き続き高い。全戸一括型マンションISP各社が既築の賃貸物件への導入に一層注力することから、同市場セグメントにおけるインターネット導入が増加すると予測する。また、新型コロナウイルスへの対応で在宅勤務や遠隔授業などが急速に広がる中、固定インターネットが再評価されたことも要因として2020年度は前年度を上回る伸び率となる見込み。

同時に在宅勤務等によって、インターネットの通信品質の重要性が以前にも増して高まっている。マンションISP各社は通信品質を担保するため、IPoEサービスの導入や複数の回線事業者からの調達など負荷分散に努めており、10Gbpsの高速通信に対応した新たなサービスの提供も始めている。通信品質を維持するためにもマンションISPには適正な料金でインターネットを提供していくことが一層求められる。また、物件入居者やデベロッパー、オーナー、管理会社向けに付加価値サービスで差別化を図り、価格競争から脱却することが課題となっている。

※IPoEは「Internet Protocol over Ethernet」の略で、イーサネットを使用してIPパケットを伝送する通信方式。一般的に従来型のPPPoE方式より高速なインターネット通信ができる。

 


 

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