「GIGAスクール」で設備需要が急伸

公立小中学校のICT利活用動向調査(2020年3月時点)

2020年05月07日

■「全教室無線化」未整備の学校が7割。GIGAスクール補助金で20年度中には急進展へ

■ PCなど端末も無線化計画にあわせ調達

■ 教科書などのデジタル学習コンテンツ予算化検討は3割で、デジタル教育普及に課題残す

■ 教育デジタル革新の実現に壁、サービスベンダーの役割に期待

 MM総研(東京都港区、所長・関口 和一)は5月7日、公立小中学校のICT利活用動向調査の結果を発表した。都道府県および市区町村の教育委員会を対象としたアンケート調査で、378の教育委員会から回答を得た(※1)。文部科学省が打ち出した「GIGAスクール」構想(※2)が動き出すなか、全国の公立小中学校におけるインターネット回線の無線化状況をはじめ、PCやタブレット導入、デジタル教科書やコンテンツなどの利用意向や課題などを調査、分析した。

(※1)回収した378サンプルのうち、最終設問まで回答したのは124サンプル)

(※2)生徒に1人1台の学習者用PCを用意し、クラウド活用を前提とした高速ネットワーク環境など整備する実行計画。今後5年間での実現を目指している。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略

 7割の小中学校で無線化整備が必要、20年度中に調達

 調査結果によると、2020年3月時点で全国小中学校の教室における完全無線化の割合は小学校で28%、中学校で32%だった(グラフ1)。小中学校いずれも残る約7割の学校で完全無線化が実現していなかったことになり、これら未整備の学校のうち約9割が「2020年度中に無線化の調達・整備をする」と回答している。GIGAスクール構想を受け、補助金が出る今年度中に設備整備に拍車をかける。

 

グラフ1: 小中学校における教室のインターネット回線無線化状況 

※計算の関係上、構成比の合計は100%にならないことがある。

 

PCなど端末も無線化にあわせ調達

 PCやタブレットなど端末の調達方針について、小学校では82%が「無線化と合わせて調達する」と回答した(グラフ2)。中学校でも81%が「無線化と合わせて調達する」としている。文科省によれば、2019年3月時点で約800万台の端末が不足している。当初はこのうち300万台を20年度中に配備する計画だったが、新型コロナウィルスの経済対策を加味し、補正予算に織り込んで計画を前倒する方針。(※本調査は計画前倒しを発表する前の調査結果)

 端末の保守体制については、「学校ごとに予備を用意し、壊れたらメーカーに送付・修理してもらう」「専用のヘルプデスクを用意してもらう/現場に修理に来てもらう」が多数を占めた。トラブルの切り分け含め「現場でなるべく対応する」と回答した比率は低い。運用コストが高止まりしやすい“駆け付け保守”に依存する従来型のユーザー意識が未だ残る結果となった。

 欧米並みのデジタル教育を定着させるには「SDNを活用したネットワーク運用自動化」「DaaS(デバイス アズ ア サービス)」など最先端の運用自動化の仕組みが求められるが、この面でも現場レベルの理解が不足している現状が浮かび上がる。(※3)

(※3-1)SDNはSoftware Defined Networkの略で、ソフトウェアにより、データプレーンを制御する技術

(※3-2)DaaS(デバイス アズ ア サービス)は、パソコンを所有せずに月額課金形式で利用できるサービス

 

グラフ2: 小中学校にPC・タブレット等の端末調達方針 

 

デジタル学習コンテンツの予算化検討は3割

 デジタル学習コンテンツ(各教科のデジタルドリル、デジタル教科書、プログラミング教材など)の予算化について聞いたところ、「積極的に検討している」の回答が9%、「やや検討している」が25%を占め、両者を足した“予算化検討校”は全体の3分の1程度になる(グラフ3)。残りの約7割は「無線化やPC・タブレットなどの端末配備が先」という姿勢だ。有料コンテンツ調達にあたっての課題は、最も多い回答が「費用」、次いで「教師への活用方法の展開」「教師のITスキル」など。

 20年度の教育現場では既存授業でのデジタル活用(デジタルでの置き換え)が徐々に始まる程度とみられる。一方で、個別最適化された学習やクラスのコミュニケーション状態の可視化などソフトウェアの活用については、先進的な一部の学校で開始されている段階。政府は今年度に調査研究を始める状況で、ソフトウェアの政府予算化はまだ先になりそうだ。

グラフ3:デジタル学習コンテンツの予算化方針

 

教育デジタル革新の実現に壁、サービスベンダーの役割に期待

 調査結果を踏まえ、MM総研は極めて深刻な状況と捉えている。端末、高速ネットワーク、クラウドなくしては、デジタルトランスフォーメーション(デジタル革新)はありえない。大事なことはデジタルの「整備」ではなく「定着・発展」であり、その先にある目的を見失いそうな調査結果が出ている点に危機感を覚える。2000年代から教育のデジタル化は唱えられていた。スクールニューディール、学びのイノベーション、どれもコンセプトはすばらしかったが、足元をみればデジタル教育の定着には程遠い状況だ。

 このような状況下で期待したいのが、ITベンダーの役割だ。デバイスや生徒、教師それぞれをつなぐOne to One Educationに向けプラットフォームを整備する動きが加速している。教育現場をPCで長年支えてきたNECは「Open Platform for Education」というプラットフォームの提供を始めた。教育市場に強い富士通も「GIGAスクール推進室」を設置し、内田洋行を始めビジネスパートナーとソリューション開発をしていく方針という。このほか、NTTコミュニケーションズや大日本印刷など国内ITに加えて、日本マイクロソフトやGoogleなどメガプラットフォーマーも参戦している(表1)。競争に勝てるかどうかは、プラットフォームの上に魅力的なコンテンツを仕込むかにかかっている。本調査においても従来教科の学習のほか、プログラミング教育の需要も高い。さらに、活用に向けたサポートへの要請も強い。

 各社とも政府がGIGAスクール関連で約4,500億円の予算(※4)をつけたことで、まずはインフラ整備からとなるが、学校教育でのICT活用は進むと睨んでいる。AI、IoT、運用自動化、IDaaS(アイディー アズ ア サービス)などIT市場で培った英知を動員して日本の産業競争力の源泉「教育」の底上げに期待したい。

(※4)2019年度補正予算、2020年度補正予算を合わせた概数

表1:代表的な教育プラットフォーム・ソリューションおよび提供者一覧

※表中の企業名はアイウエオ順

 

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■調査概要

1.調査対象  :都道府県および市区町村の教育委員会における小中学校のICT調達担当者

2.回答件数  :378サンプル(うち、最終設問まで回答したのは124サンプル)

3.調査方法  :Webアンケート

4.調査時期 :2020年3月

  


■注意事項
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■MM総研について
株式会社MM総研は、ICT分野専門の市場調査コンサルティング会社です。日本におけるデジタル産業の健全な発展と市場拡大を支援することを目的として1996年に設立し、四半世紀にわたって経験と実績を重ねてきました。ICT市場の現状と先行きを的確に把握する調査データに加えて、新製品・新サービスを開発するためのコンサルティングサービスも提供しています。

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