国内主要ベンダーが官公庁向けクラウドに続々参入

――海外勢が攻勢、オンプレミスで築いた牙城守れるか?

2020年06月08日

 国内主要ICTベンダーが、官公庁向けクラウド事業に続々と参入している()。NECは6月2日、日本政府向けのクラウド事業を強化し、クラウド活用に関わる各種サービスを7月から提供開始すると発表した(NECのプレスリリース)。それに先立ち、富士通は3月6日に「ガバメントクラウド」、NTTデータは3月16日に「Digital Community Platform」の提供開始をそれぞれ発表済みだった(富士通のプレスリリースNTTデータのプレスリリース)。

 

 

●政府システムのクラウド化率は3割

 この背景には、政府がクラウド(パブリッククラウド、政府共通プラットフォーム、その他プライベートクラウド)の導入・活用に大きく舵を切っていることがある。2018年1月16日に政府のeガバメント・閣僚会議において「デジタル・ガバメント実行計画」が決定され、行政サービスの100%デジタル化が推進されている。計画では、オンプレミス中心のシステムをクラウド化していく「クラウド・バイ・デフォルト原則」も明確化された。

 

直近では、デジタル・ガバメント旗振り役の内閣官房IT総合戦略室が2020年3月31日に「デジタル・ガバメント中長期計画」を改定、各省庁の対応状況について公表した。それによると、直近の2019年時点で、政府が保有する情報システムは938システム、そのうち290がクラウドでクラウド化率は30.9%である(ほかはオンプレミス)。2017年の20.1%から徐々にではあるが、確実にクラウド化が進んでいる。(データは公表資料をベースにMM総研が算定)

 

 

海外勢の攻勢に危機感

 政府系オンプレミスの多くはNEC、富士通、日立、NTTグループなどの国産勢の牙城だったが、クラウドに関してはAmazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azure、IBM Cloudなど外資系が攻勢をかけ、採用が相次いでいる。象徴的なのは政府専用のプライベートクラウドである「政府共通プラットフォーム」だ。これまでは富士通やNTTデータなど国内ベンダーが設計構築から運用まで一手に担ってきた。しかし、今年度の秋口に運用が開始される「次世代政府共通プラットフォーム」ではアクセンチュアやIBMが設計開発に関わり、基盤にはAWSを採用する。

 

政府のあるIT担当者は、「クラウドに対する投資の活発度合、継続性、セキュリティ、拡張性など様々な点を勘案し、優位なものを選んだ結果だ」と話している。

 

国産ベンダーによる官公庁向けクラウド事業への参入が相次ぐ背景には、こうした海外勢の攻勢に対する危機感がある。長年築いてきた牙城を守れるかどうか――。厳しい攻防が予想される。

 

政府情報システムのクラウド化に関する最新情報は、会員限定のICT情報誌「MM Report」6月号にて詳報している。

 

(取材・文: 高橋樹生)