6月株主総会は「バーチャルオンリー」も登場か

――ブイキューブ、富士ソフトの実践例に学ぶ

2020年04月24日

 3月決算企業の株主総会は例年6月下旬に集中する。今年は新型コロナウイルスの影響による決算処理の遅れもあって7月上旬へのずれ込みもありそうだが、約4000社の株式上場企業にとっては、個人投資家を含めて多くの株主が1カ所に集まる「株主総会」をどのように運営するかが直近の課題となっている。

 

その対策の決め手になりそうなのが「バーチャル株主総会」である。

バーチャル株主総会に法務省・経産省がお墨付き

 これまでの株主総会は、リアルに存在する会場に、取締役や監査役、株主が集まって行われるのが一般的だった(リアル株主総会)。これに対して、「リアル株主総会を開催しつつ、当該リアル株主総会の場に在所しない株主についても、インターネットなどの手段を用いて遠隔地からこれに参加、出席することを許容する株主総会」が「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と定義されている(『ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド』、経済産業省、2020年2月26日)。

細かくは、参加型と出席型の2つに分類される(図1)。参加型はリアル会場の映像をネット配信し、株主が視聴できるようにする形態。基本的に当日の質問や動議、議決権行使はできないが、会場に赴くことなく経営陣の説明を生で傍聴することができる(事前の議決件行使などは可能)。

 一方の出席型はリアル会場と株主をインターネットなどで双方向に結び、動画視聴だけでなく当日の質問や動議、議決権行使も可能にしたもの。リアル会場の株主と同様に「出席」の扱いとなる。

 さらに、バーチャルだけで実施する「バーチャルオンリー株主総会」という概念もあるが、これは会社法の規定により現在のところ認められていない。

 

 

富士ソフトとブイキューブがトライアル実施

 既に、実際の株主総会でトライアルが始まっている。ハイブリッド出席型を容認した経産省ガイドラインを受け、システム開発の富士ソフトが3月13日、Web会議のブイキューブが3月25日に、リアルとバーチャルを組み合わせた「ハイブリッド型」で実施した。

 

 富士ソフトは、招集通知送付までに約1週間、開催までに3週間というぎりぎりのタイミングだったが、「ICT企業としての矜持をもってチャレンジしようと経営陣が決断した」(赤松理総務部部長)。PC、電話、iPadを駆使して動画視聴、質問、議決権行使を行える「出席型」。議決権行使のためには、同社のペーパーレス会議用システム「moreNote」を活用した。総会当日は、リアルで159人、バーチャルで11人の株主が出席した。


富士ソフトの赤松理総務部部長

 

 一方のブイキューブの株主総会には、リアル会場に約10人、バーチャル参加者が約100人という逆転現象が起こった。同社の場合、「V-CUBEセミナー」でリアル会場の様子をライブ配信する「参加型」だったが、チャット機能を使って株主から“コメント”も受け付けた。また、アンケート機能を使えば議決権行使も可能だという。

 間下直晃社長は、「運用方針を招集通知に明記すること、その上でリアル出席かバーチャル出席かを株主自身が選択できるようにすることが重要だ」と話している。


ブイキューブの間下直晃社長

実質的なバーチャルオンリーを想定した準備も必要

 両社の知見から3つのポイントを抽出すると、図2のようになる。

 

 

 経済産業省と法務省は、新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとった結果、「会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能」(『株主総会運営に係るQ&A』、2020年4月2日)という見解を示した。つまり「実質的なバーチャルオンリー株主総会」も法的に認められる。

 

 蓋を開ければ、リアル会場に株主ゼロ――。そんな極限状況も想定しながらのオペレーション設計が求められている。

(水野 博泰)


 ●富士ソフトとブイキューブが実施したバーチャル株主総会の詳細については、「MM Report」2020年5月号特集をご覧下さい。(新規購読のお申し込みはこちら)