生成AI向けのクラウドサービス「NVIDIA H100プラン(β版)」を提供開始

―――さくらインターネットがメディア向け事業説明会で発表

2024年08月29日

さくらインターネットは8月27日、メディア向けに事業説明会を開いた。前半に田中邦裕代表取締役社長による同社の取り組みについての説明があり、後半は舘野正明副社長兼執行役員から経済産業省の「特定重要物資クラウドプログラムの供給確保計画(クラウドプログラム)」に申請した背景の説明と、生成AI(人工知能)向けクラウドサービス「NVIDIA H100プラン(β版)」の発表があった。

 

「NVIDIA H100プラン(β版)」の概要

提供:さくらインターネット

 

 

・日本を代表するデジタルインフラ企業へ

 

近年、海外メガクラウドの攻勢により国産クラウドの衰退が目立ち、日本では海外のIT企業への支払いが超過する「デジタル赤字」が拡大している。クラウド化という大きなトレンドが貿易赤字をさらに拡大させる中、さくらインターネットはクラウド事業を右肩上がりで成長させている数少ない企業だ。同社は創業以来、レンタルサーバーやクラウドサービスといったデジタルインフラを一貫して提供しており、データセンターの管理からサービス開発や運用、販売、サポートまでを垂直統合型のビジネスモデルで展開している。特に、自社で調達・開発・運用する自前主義を特徴としている。また、同社はデジタル庁から国産クラウド初となる政府クラウド(ガバメントクラウド)に条件付きで認定された。認定理由について田中社長は「自前主義により、日本国内にアセットが残りやすい点が政府のクラウド産業育成方針とマッチしたのではないか」と述べている。同社は、経済産業省の「クラウドプログラム」でも最大575億円の助成を受けることが予定されている。

 

田中邦裕さくらインターネット代表取締役社長

 

同社はグリーントランスフォーメーション(GX)も進めている。近年、データセンターが大量の電力を消費することが明らかになっており、エコなデータセンターが求められている。同社が北海道に保有する石狩データセンターは、再生可能エネルギー100%で運用されている。生成AIの活用により今後もデータセンターの需要は高まり、二酸化炭素(CO₂)フリーのデータセンターであることは必須の要素となるだろう。また、同社は成長戦略には人材が不可欠な要素と位置づけており、社員の働きやすさを重視し、リモートを前提とした働き方にシフトしている。しかし、リモートワークでは対面での人間関係が希薄になることが懸念されるため、対策としてオフィスの執務エリアをパブリックスペースにシフトしている。

 

さくらインターネットの国内拠点

提供:さくらインターネット

 

 

・生成AI向けクラウドサービスの提供計画について

 

さくらインターネットが経済産業省のクラウドプログラムに申請した背景には、①2016年から機械学習を実施するためにNVIDIA製GPU(画像処理半導体)を用いた「高火力サービス」を提供してきた実績があること②米NVIDIA社と長年にわたる関係があること③エコなデータセンターが求められる中で、同社がCO₂フリーの石狩データセンターを保有していること――といったことがある。

 

舘野正明さくらインターネット副社長兼執行役員

 

クラウドプログラムの申請を決めた後、サービス提供までの整備は非常にタイトなスケジュールで進めてきた。クラウド整備計画は第1次と第2次の投資計画に分け、第1次では2023年から2025年までに総事業費約130億円をかけてNVIDIA製のGPU「H100」を2000個整備し、第2次では2023年から2027年までに約1000億円を投じ、NVIDIA製のGPU「B200」をはじめとしたGPUを8000個以上整備する計画となっている。クラウドプログラムで第1次、第2次のそれぞれで半分の投資額が補助される予定だ。

 

第1次計画で整備したGPU「H100」は、2024年1月31日から提供している高火力サービス「高火力PHY」で利用している。物理的なサーバー1台を丸ごと提供するもので月額課金制での利用となる。2024年6月27日からは「V100」を使用したコンテナ型のGPUクラウドサービス「高火力DOK」を開始している。利用時間に応じた従量課金制で、スポット利用が可能なため、安価に利用したいユーザー向けのサービスとなっている。

 

今回発表したサービスは、「高火力DOK」にH100プランを追加した試用版(β版)だ。現在、「NVIDIA H100プラン」の正式版に向けた準備と、物理サーバー上に複数の仮想サーバーを構築できる「VM版(仮)」の開発が進行中であり、VM版(仮)は2024年度内に発表する予定という。また、石狩の拠点にコンテナ型データセンターを整備中であり、第2次の投資計画も進行している。

 

コンテナ型データセンターと高火力新シリーズの開発予定

提供:さくらインターネット

 

第2次投資戦略の展望

提供:さくらインターネット

 

さくらインターネットは自社の強みを活かし、GPUへの大規模な投資により、日本のデジタルインフラを支える企業として成長できるよう戦略を描いている。

 

(井上)