Postman、日本法人設立と日本市場への参入を発表

――――米Postman CEOのアビナフ・アシュタナ氏に聞く

2023年12月13日

 

異なるソフトウエア同士をつなぐ仕組み「API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)」の開発ツールを手掛ける米国シリコンバレーのユニコーンである、Postmanが日本法人を設立し、日本市場へ参入する。同社の提供するAPIプラットフォーム「Postman」は、日本でも40万人を超す開発者、「日経225」構成企業の8割超が利用しているという。関口和一MM総研所長がPostman創業の経緯から日本市場を攻略する上での戦略や展望について、Postman最高経営責任者(CEO)兼共同創業者のアビナフ・アシュタナ氏に聞いた。

 

 

 ●自身の苦労がPostman設立のきっかけに

――APIのプラットフォームという新しいアイデアを思いついた経緯を教えてください。

 2013年にヤフーのインターンとして、API開発をしていました。API は、ソフトウエアやプログラムなどをつなぐインターフェースのことですが、ヤフーのような大企業でさえ、APIの構築は非常に破壊的なプロセスでした。関係者を訪ね、「どうやったらこんな仕組みになるの?」「これは実際に機能しているのか?」といった確認がいちいち必要だったのです。

たとえ小さなチームであっても、iPhone、Android、Web用のソフトウエアを作らなければならず、また、サーバー側でもソフトウエアを多くのピースに分解する必要がありました。そして、そのすべてにAPIが必要でした。市場にAPIの開発ツールが出回っていないかと探しましたが、何も見つかりませんでした。そこでAPIのプラットフォームを構築すれば面白いと思い、サイトを構築し、コミュニティに使ってもらうために公開してみたところ、大きな関心を呼びました。2013年に私たちがまだ会社として立ち上がっていなかったときにChromeウェブストアでトップ開発者製品として紹介されました。数カ月後、Chromeウェブストアには 50 万人ほどのユーザーがいて、インドの投資コミュニティから、会社を設立し、このアイデアを前進させないかと打診され、2014年10月に正式に会社としてスタートしました。

 

――会社を米国に移転した理由を教えてください。

 Postmanに対して興味を持つアーリーアダプターの顧客の多くが米国から来ており、投資にも意欲的だと感じました。業界をリードするグローバル企業にしていくためには、Postmanは資金調達を乗り越えなければなりません。そういった経緯で2017年に米国に移転しました。

 

――Postmanという社名に込めた意味を教えてください。

 世界中の人々が発音して理解できるような、とてもシンプルな名前にしたいと考えていました。また、郵便配達員(Postman)は、さまざまな人々をつないでいます。Postman が API との接続を改善するのと同様だと感じ、そういう意味でもよいと思いました。

 

――Postmanという単語は一般的なので、それぞれの国からドメイン名を取得するのは難しいのではないかと思いましたが。

 当初、最初のドメインはgetPostman.comでした。getとpostはAPI構築における専門用語なので、開発者であれば、APIのことだとイメージできます。Postman.comのドメイン所有権は、すでに他の人にありましたが、所有者にアプローチして、Postman.comのドメインを購入しました。

 

 

 ●開発者のためのオープンなプラットフォームを提供

――開発者が世界中のAPIを取得できるようにし、一連のサービスを1つのパッケージとして提供するというサービスは素晴らしいですね。

 私たちの調査では、開発者は50%以上の時間をコードの記述よりもAPIの操作に費やしています。基本的なレベルであれば、開発者の作業時間を短縮することができます。また、開発者たちはほとんどチームで作業します。チーム規模の大小にかかわらず、よりよく協働し、より生産的に業務を遂行できるように私たちは支援しています。

 

――一部の企業はAPIのライブラリーを自分たちで管理したいと思っているかもしれません。そういったときに、どうやってその企業から許可を得て、情報を開示するように説得するのでしょうか。

 ネットワーク上には、10万から20万の企業によって、約40万のAPIが記録されており、これらはすべて公開されています。SalesforceやStripe、Google Maps、HubSpotなど、世界のトップ企業は、開発者エクスペリエンスがAPIの成功の大きな理由であることに気づいています。Postman は開発者向けの優れた開発者エクスペリエンスの構築に多大な投資をしてきており、Salesforce、Dropbox、そして旧Twitter(X)の支援から始めました。それ以来、世界のトップ企業を顧客にしています。そのような実績があるため、さほど難しくはありません。

 

――課金方法は?

 私たちのオファリング、3人までのコラボレーションは無料です。私たちが課金するのは、4人以上のコラボレーションと、企業向けに提供するSSOなどのセキュリティ機能です。月額での請求方法はユーザー数に応じて課金するSaaS型で、中小企業から大企業まで購入可能です。当社の製品は誰にでも使えるプラットフォームだと評価されています。

 

―― App StoreやGoogle Playストアなどでは、ソフトウエア製品の金額の約30%が手数料として課されていますが。

 私たちは公共の立場に近いといえるでしょう。企業がより良いAPIを構築できるように支援し、開発者のツールとそのプラットフォームを提供しています。誰もができるだけ自由な環境で使えるような形で提供しています。 

  

――なぜ、他の人はこのようなビジネスモデルを考えつかなかったのでしょうか?

  APIのプラットフォームづくりにおいてはデザインの才能と開発の才能を結集する必要があります。しかし、これは非常に複雑で、開発者が実際にどのように働いているかを理解することは非常に難しい問題だと思います。

私は父からコンピューターを与えられたことがきっかけで、小学5年生の時にコーディングを始め、それ以来ずっとコーディングをしています。その過程でデザインも学びました。ですから、Postmanには新しい方法で問題を考えるのに役立つ優れたデザインと優れた開発をもたらすDNAがあります。だからこそ私たちはトップ3に入るような開発者のためのサービスになっているのだと思います。

 

 

日本市場に期待、市場開拓のために積極投資

――日本市場についてどのような期待を抱いていますか。また、日本の産業をどう見ていますか。

 ソフトウエアのモダナイゼーション(近代化)を本格的に進めるのに大きなチャンスがあると考えています。私たちはこの先、多くの成長を期待しています。 ソフトウエアは現代で成功するための重要なコンピテンシーであると私は信じています。そして、日本ではすでに約40万人の開発者が私たちのプラットフォームに登録し、Postmanを使用しています。そういった意味で日本市場はソフトウエアが近代化する先端にあるかもしれません。

 

――日本ではAPIを使わず、自前でソフトウエアを提供したいと思っている企業も多いと感じていますが、この国でこのサービスが受け入れられるか、どのようにお考えでしょうか。

 はい、私たちが持っているデータの中には、非常に似通ったものがあると思います。それが世界のデフォルトであり、スタンダードになっていることを目の当たりにしてきました。会社としては躊躇(ちゅうちょ)するかもしれませんし、今はまだAPIを使いたくないかもしれませんが、5年後、10年後には使わざるを得なくなるでしょう。

 

――日本市場に参入するための課題や障壁はあると思いますか?

 現在、PostmanはAPI領域の中核をなす企業であり、常に開発者ファーストの企業です。私たちは製品の主要なユーザーである開発者と関わりたいと考えています。ですから、最初の年はただ彼らの声に耳を傾けることに重点を置き、それからサービス利用者に製品を利用する上での障壁は何かという点を聞き、乗り越えていきます。

 

――APIの活用について業種間での違いはありますか?

 APIはすべての業界に影響を与えるものであり、業界にとらわれません。あらゆる機械がAPIを介してデータを転送しています。APIファーストの傾向は業界によって異なる可能性もありますが、フィンテック、テクノロジー、輸送、決済、銀行などはAPIファーストになりたいと思っているのではないでしょうか。数年後には、あらゆる業界がAPIファーストに移行するだろうと私は信じています。

 

――では、Postmanとして次のステップは何でしょうか?

 今後のトレンドとしてはジェネレーティブAI(生成AI)です。世界中でさらに多くのAPIを作成する必要がでてきます。これは少し前にモバイルが世界中で爆発的に普及したという事象と同様だと思います。また、クラウドでも同じことが起こっています。企業は情報通信インフラ自体への投資よりも、クラウドにますます投資するようになったと思います。Postmanは開発者を支援するためにジェネレーティブAIにも投資しています。

また、ノーコードのアプローチにも投資をしています。私たちは開発のバックグラウンドがなくてもプラットフォーム上で提供する何百万ものAPIを使って簡単にソフトウエアを構築できることを願って、API を論理的に接続するためのワークフロービルダー「Postman Flows」を立ち上げました。この2つの分野への投資を非常に楽しみにしています。

 

(曽我)