離陸態勢に入った国産ドローン

――【連載最終回】日本が切り開くドローン産業の未来

2021年12月01日

 

(MM Report12月号より)
 

■世界の航空産業に挑む国産ドローンメーカー

 ACSLは2013年の創業から国産ドローンを作り続けてきた専業メーカーだ。日本初のマザーズ上場を果たしたドローンメーカーとしても知られる。主力製品は2019年に製品化した「PF2」。ACSLの重点分野はインフラ点検、物流、防災の3つだが、いずれも顧客要件ごとに細かい機体のチューンアップが必要だ。ユーザーと徹底的に議論する提案スタイルで多くの信頼を勝ち取ってきた。独特なヘキサコプターの形状をもつPF2を個別にカスタマイズし、わずかな違いにも柔軟に対応できることが同社の強みだ。

 同社の制御技術は環境認識技術を「大脳」に、機体制御技術を「小脳」になぞらえて説明される。「大脳」はカメラやセンシングにより得られた機体周辺のデータをいち早く分析し、次のアクションを即座に判断する技術群だ。

 そして、「小脳」は、あらかじめ作成した機体モデルで起こり得る挙動を事前に予測させ制御に組み込む「非線形制御」と呼ばれる技術。この技術の実用化で、例えば秒速20メートルという強風下でも運用可能な風力発電プラント点検用ドローンも開発している。小脳の技術こそACSLの技術的優位性の源泉である。

■小型空撮機で国産の新ブランドを提供

 めざすのは、自社技術を他のドローンメーカーにも活用してもらうプラットフォーマーの地位だ。事業目標には、「10年後に売上高1,000億円、営業利益100億円、年間30,000台を量産」を掲げる。

 同社が注目しているトレンドには「国家安全保障」がある。国内のドローン市場は機体のほとんどを中国からの輸入に頼っている。ACSLは有事の際の機器調達の備えとして、国産機量産化という代替案を示そうとしている。

 ACSLはヤマハ発動機とともに、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が推進する「安全安心なドローン基盤技術開発」事業に、新機体開発を担当した。ACSLではその利用権を行使し、2021年12月には新機体を自社ブランドとして展開する予定だ。機体重量1.7キログラムという小型試作機はDJIの「PHANTOM」の重量に近い。

(同社新機体のティザーサイト) 
https://www.acsl.co.jp/movingsocietyforward/

 
 鷲谷聡之社長は外資系コンサル会社に勤務していた当時から「世界に誇れる新たな産業を日本に創りたい」という思いが強かったという。日本製造業の復権の一翼を担う企業としてACSLの名前をこれから何度も耳にするようになるだろう。

(狩野翼)

※ 詳細は会員限定調査情報誌「MM Report」2021年12月号をご覧ください。