空飛ぶクルマは事業として成立するか

――【連載第八回】ノウハウあるも、事業化への課題は多い

2021年07月01日

 

(MM Report7月号より)

空飛ぶクルマの運航の担い手として、飛行機やヘリコプターなど高度なスキルをもつ航空事業者が有望視される。この分野で大手の一角を占めるのが、中日本航空株式会社(本社:愛知県西春日井郡、二神一代表取締役社長)だ。無人機ではドローン運用などにも実績がある。

 

■三重県の実証実験に参画

同社は、空飛ぶクルマの事業性を具体的に検討した数少ない航空事業者だ。三重県が主導する「『空の移動革命』実現に向けた飛行ルート策定事業」に関するプロジェクトに参画。中部国際空港から県内観光地までを空飛ぶクルマで移動することを想定した飛行ルートを策定し、約60㎞を空飛ぶクルマの代替としてヘリコプターで飛行する実証実験を実施している。

プロジェクトリーダーをつとめた、同社調査測量事業本部付・新領域戦略室の國枝信吾マネージャーは参画の目的は2つあると話す。ひとつは、オンデマンドで利用でき、遠隔操縦や無人飛行が可能な機体が登場した場合、「空の移動の在り方がどのように変化し、事業にどのような影響が出るかを検討しておく必要がある」という理由。もうひとつは「有人機飛行には厳しい規制がかけられるが、空飛ぶクルマの登場でどのように規制が変わりうるか研究するため」だ。既存事業への影響を把握し、長期的な経営戦略を考えることが動機となった。

 

画像:三重県の実証実験に使用したBELL430(JA05TV) (同社提供)

 

■課題多く、「人員輸送事業については黎明期から取り組めない」と結論

しかし、中日本航空は「空飛ぶクルマによる人員輸送事業は黎明期から取り組むべきものではない」と結論づけた。「事業化には課題が非常に多い」との判断だ。

まず、社会的受容性が十分に得られていない。ヘリコプターのように人を乗せて飛び回っても事故の心配が少ないという安心感が住民の間で共有されない限り、まずは人里離れた場所で離着陸の実績を積み上げてから都市上空での運用に移るべきという判断だ。

また、機体開発もまだ完ぺきとは言いにくい。バッテリーによる飛行時間も短く、ヘリコプター並みの稼働率が確保できる機体は今のところない。4人家族が一度に乗れるような大型機体の開発もなければ、観光利用での事業化も難しいのではないかと話す。ヘリコプターでもチャーター運航は利益確保が難しい事業なのだ。

その一方で、同社には空飛ぶクルマの運航に移植可能な知見もある。機体を整備できる体制があり、航空機のオンデマンド飛行のノウハウもある。国内のスキルを活用して、空飛ぶクルマを本格的に社会実装するには、もうしばらく検討時間が必要だと感じた。

 

(狩野翼)

 

※ 詳細は会員限定調査情報誌「MM Report」2021年7月号をご覧ください。