利用者に求められる“空飛ぶクルマ“は何か

――【連載第五回】未開の領域に挑む市場調査プロジェクト

2021年03月01日

 

(MM Report3月号より)

 慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科(SDM研究科)空飛ぶクルマラボの中本亜紀特任助教は、実用化に向けた市場調査と、機体・インフラの仕様検討に取り組んでいる。

 機械工学の一分野として普及する「システムズエンジニアリング」の手法を、さまざまな分野への適用研究をするSDM研究科内に「空飛ぶクルマラボ」が設置されたのは2017年のこと。有志団体「CARTIVATOR(1月26日より団体名を“Dream On”に改称)」共同代表の中村翼氏が、同大学院の中野冠教授に相談に来たことがきっかけだ。

 

■徹底したヒアリング調査が信条

 同ラボは宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中核とする「航空機電動化コンソーシアム(ECLAIRコンソーシアム)」にも参画し、市場調査を基に、利用者が求める機体・インフラの要求仕様とビジネスモデルの提示をめざしている。このプロジェクトの中核となる、市場調査チームを率いるのが中本氏だ。

 中本氏は現地ヒアリングを重視した市場調査を展開する。ヒアリング内容は詳細で、インタビュー先は事業者から地域住民まで多岐にわたる。「足を使って現場の話を聞かないと、真に必要なモビリティを提案・実現できない」が中本氏の信条だ。

 

■実現性の高い4つのユースケース

 市場調査チームでは事業性が高く、参加各社の関心も高いユースケースを現時点で4つ、①冬期二次交通、②万博・IRでの関西国際空港からの二次交通、③海上での観光利用(瀬戸内など)、④都市通勤(東京・山梨間など)に集約した。

 これらの個別事例を想定すると、運航条件や規制などに適合するビジネスモデルや技術が具体的な検討課題として浮上してくる。

 例えば、①に該当する北海道のスキーリゾート・ニセコは、海外の富裕層が滞在するケースが多い。新千歳空港からの二次交通で空飛ぶクルマの利用が見込める。

 気候条件が厳しいニセコの利用を想定すると、「MoSCoW分析(注)」により空飛ぶクルマの機体要件が明らかになる。2030年に実用化を想定した“Must”では、ヘリコプター並みの安全性能と、ヘリコプター以上の高い運航率が必要とされる。

 

(図表)MoSCoWによる機体要件の整理(出所:2019年ECLAIRオープンフォーラム 慶應義塾大学資料、2019年11月28日)

MoSCoW

 

 

 「コロナ禍で対面での活動を制約される中、全く新しいもの、正解がないものについて検討していくことはチャレンジだ」と未開拓の領域に手探りで取り組む苦労とやりがいについて中本助教は語った。

 

(狩野翼)

 

(注)MoSCoW分析:要件定義のためのフレームワーク。求められる機能・性能を“Must”=「必要」、“Should”=「必ずとまでは言わないが必要」、“Could”=「あったらいい」、“Won’t”=「いらない」の4象限で表現。

 

※ 詳細は会員限定調査情報誌「MM Report」2021年3月号をご覧ください。