三重県で始まった“空飛ぶクルマ”の社会実装

――【連載第4回】交通課題の解消と観光利用をめざす行政の事例

2021年01月05日

 

(MM Report1月号より)

 空飛ぶクルマの乗用サービス構想は大きく2つに集約される。ひとつは都市交通における新たな選択肢、もうひとつは移動が不便な場所への交通手段の提供だ。大阪府が発表した「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」は都市交通を想定した取り組みだ。

 一方、交通インフラの整備が不十分な地域での利用も念頭に置き、社会実装に向けて動く自治体もある。中でも強い意欲を示すのが三重県だ。同県の空飛ぶクルマ事業を担当するのは創業支援・ICT推進課 創業支援班。空飛ぶクルマの事業化に積極的なのは鈴木英敬知事の意向が強かった。

 三重県の『空の移動革命』は、3つの課題の解決を「最終目標」に設定する。

 1.離島・過疎地域など生活不便地の利便性向上

 2.観光産業での新たな価値の創出

 3.災害時の緊急支援/産業の効率化

 上記の長期的課題を解決する手段として期待するのが空飛ぶクルマだ。

(図表1)三重県が「空飛ぶクルマ」を活用してめざす社会像(三重県提供)

 

■移動困難地域に対する解決策として

 三重県は移動に関する課題が多い。公共交通機関が充実した北部・伊賀地域と、過疎化の進行で交通インフラの維持が課題となる南部、離島交通を船舶に依存する伊勢志摩地域との交通格差が存在する。全県で自動車依存度が高く、地域の公共交通の維持を今から進めたいという背景がある。

 同時に観光分野の価値向上も狙う。豊富な観光資源を上空から楽しんでもらう遊覧飛行のアイディアとともに、中部国際空港からの二次交通も重要だ。伊勢神宮まで鉄道で約3時間かかるが、空飛ぶクルマを使うと30分だ。「まずは移動手段の選択肢を増やしたい」と三重県は話す。

 

■実用化目標を2027年に設定

 県独自にロードマップ(「画像2」参照)を作成し、マイルストーンを設定しながら実務を進めている点はユニークだ。まず2023年に物流用途での事業化を最初のゴールに設定。そして、最大の特徴は乗用実用化の目標を、リニア中央新幹線の品川-名古屋間が開業する2027年に設定している点だ。この年に実用化の照準を絞ったことで、2030年を目標とする国よりも一歩踏み込んだ計画となっている。

 「ヘリコプターの事業化」をスケジュールに明記し、「社会的受容性の醸成」を促す点も特徴的だ。

 空飛ぶクルマは既存交通手段やMaaSなどとも組み合わせることで移動の不便さを解消する手段に十分なり得る。それ以上に、地方自治体にとって現実化しつつある地域社会の喪失の危機を回避するひとつの手段として、空飛ぶクルマの社会実装が期待されている。

(画像2)空飛ぶクルマ 三重県版ロードマップ(三重県提供)


(狩野翼)

※ 詳細は会員限定調査情報誌「MM Report」2021年1月号をご覧ください。